第3章

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 銚子に残った酒を全部注いできゅっとあおる。  酔わないと決めたのに、酒に手が伸びる。  熱くなってきた頬を触ると自分の指が冷たくて気持ちがいい。  「ぃよ!唯人!おぃおぃ、酒かぁ?」  威勢の良い白井の声が背後から聞こえたかと思うと抱きつかれた。  「うわっ!!」  勢いよく圧され、前に倒れそうになる。  「っっおっ、」  力の入らない松浦に慌てて白井が引き戻すとゆらつく身体はあっけなく後ろへ倒れる。  「んわ、」  「あはは、膝枕!俺の膝高いよ!」  飛び起きたいのに頭がぐわんぐわんして起き上がれない。  「ぉおい、大丈夫かぁ?目がイっちゃってんよ」  「あくらくらする」  見上げる白井はにっこりとしている。  あぁ、なんだか懐かしいなと松浦はぼんやり思う。  同じ課にいた時は、白井と会わない日はなかったし、よく二人で飲んだ。  「いつも日本酒なんて飲まないじゃん、どうしたんだよ?今日は?」  「うん……飲みたかった、かな?」  「……なになに、かちょー疲れてんの?頑張りすぎじゃない?」  松浦の頬をぐにゃぐにゃしながら笑う白井を見上げる。  もし自分が、自分の事を告白するならば最初は白井だと思う。  今まで何度か言いかけたことがあった。  でももう一歩、勇気がでなかった。  「何もう、うるうるしちゃって!!かーわいいっ!!」  松浦の眉間にシワが寄る。  「あのさ、白井がかわいいって言うから皆にからかわれるんだけど……」  勢いで起き上がったものだから松浦の額と白井の顎ががつんと鈍い音を立ててぶつかった。  「っっっいた!!」  「ってぇ、急に起き上がんなよ!?」  「白井さん、大丈夫ですか?」  白井が顎を、松浦が額を押さえ悶絶していると、山下が膳の向こうに立っていた。  いつの間に来たのか、松浦は気がつかなかった。  涙目で見上げる松浦におしぼりを二本差し出した山下からそれを受けとると一つを白井に渡す。  「っっうん、まあ、大丈夫…」  顎を擦りながら白井が山下に「お前も座れよ」と空いた瀬戸の席から座布団を取り渡す。
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