第3章

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 「いや、これマジですよ。だって俺が見ただけで宮倉さん銚子四本空けましたから」  え!?と松浦は目を剥いた。松浦の見た宮倉はビールばかり飲んでいた。  合わせると相当な量になりそうだ。  「席立とうとしても、両脇から腕引かれて座らせられるし、本当、おつかれっした」  宮倉はごくごくと喉仏を上下させ水を身体に流し込んでいく。  口の端から溢れた水が一筋首を伝った。  しっかり座れているので松浦は障子の向こうの洗面台に置かれたタオルを取りに行く。  戻ると一気に飲み干した宮倉は腕で口を拭っていた。  「あ、これ」  拭いた後では遅いのだけど宮倉は「ああ、」とタオルを受け取りもう一度口許を拭った。  「吐き気はない?」  「ええ、でもトイレ……」  宮倉はゆっくりと立ち上がるがやはりゆらりと揺れた。  支えようと腕を伸ばした松浦を宮倉は片手で制しゆらつきながらも自力でトイレに行った。  「もう大丈夫そうっすね」  「うん、そうだね」  「じゃあ俺、戻ります」  「うん、瀬戸も飲み過ぎないようにね?」  「はーい」  瀬戸が玄関を開け出て行った後もなかなか宮倉は出てこない。  「宮倉?大丈夫?タオルいる?」  「………」  コンコンとトイレのドアを叩いてみたけれど返事はない。  吐いてるのかな、今、話し掛けても迷惑なだけかもしれない。  松浦は洗面所のドアに凭れて宮倉が出てくるのを待った。  (……寝てないよな)  部屋は暖房が効いていて障子を隔てたここも暖かくはあるが玄関から洗面所にかけては板間で足元が冷える。  障子を開け、もう少しここを暖かくしてあげた方がいいのか、逆に寒い方がいいのか……  思案しているとガチャっと扉の開く音がしてふらりと宮倉が出てきた。  顔面蒼白で見るからに具合が悪そうだ。  「大丈夫?吐きそう?」  首を振り洗面台に近付くと宮倉は蛇口をひねり水を出した。  松浦があ、っと思ったときには最大限捻って大量に水を出した宮倉は跳ねた水で濡れながら顔を洗い始めた。  (ああ、浴衣持ってきてもらわないと…)  松浦は顔を洗っている宮倉を残し部屋の電話からフロントへ浴衣の替えを頼んだ。  障子を開けると洗面台の前で豪快に顔を拭く宮倉が見える。  袖だけじゃなく、胸元まで濡れている。  夕方あれだけ浴衣の着方にうるさかった宮倉の襟はたわみ上前の裾が上がっている。
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