第3章

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 (だいぶ酔ってるよな…)  じっと見ていた松浦に気付いた宮倉はタオルで腕や胸元を拭きながらじっと見返す。  はっとして松浦は足元に目を落とした。  畳に乗る自分の足の指を見ながら頭に感じる視線に何だか恥ずかしくて身を縮めた。  足音に続いて視界の端、板間部分に宮倉の足が映る。半分開いた障子を開け、宮倉は松浦の横を通りし布団に転がった。  「あ、浴衣頼んだから……」  「……ああ、すみません」  寄っていいものか分からず松浦は突っ立ったまま暫く宮倉を見ていた。  顔をしかめ寝転んでいる宮倉は早く一人になりたいのかもしれない。  「あ、じゃあ戻るから、」  薄く笑って障子を閉めるとその向こうで宮倉の動く気配がする。  (電気、消した方がよかったかな…)  宮倉が気掛かりでちらちら障子を振り返りながら玄関を開けると、ちょうどノックをしようとしていた仲居と出くわした。  「あ、浴衣お持ちしました」  笑顔で差し出す若い仲居に松浦は一瞬振り返って障子の向こうを伺った。  仲居の声はよく通るメゾソプラノで声量もあったから障子の向こうにも聞こえている筈だけど、一向に動く気配がない。  取りには………来ないようだ。  松浦は視線を浴衣の上でさ迷わせ「…あの、」と仲居に怪訝な顔をされて漸く受け取った。  もう寝ているかな?  ゆっくりと障子を開き中を覗く。  さっきは布団の上で寝転んでいた宮倉だが今は胡座をかいて座っている。  「あ、起きてたんだ、大丈夫?」  後ろ手に障子を閉め宮倉へ近付く。  顔色はそう悪くない。  「ええ、もう、」  いつものぶっきらぼうな口振りにほっとして宮倉の横に座り浴衣を手渡した。  「ありがとうございます」  宮倉は軽く頭を下げるとゆっくり立ち上がり帯を解き始め、松浦が目を見開いているその前で浴衣を脱ぎ捨てた。  (わっ、のわわわわわわわ)  宮倉に向いていた膝を正反対までぐるんと回転させた。  風呂でも見た筈の……視界の端に捉えただけ、なのだけど…宮倉の裸体は部屋で見ると風呂と違い妙な緊張を感じる。  どくどくと強く脈打つ心臓の上に手を当てて二度深呼吸した。
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