第3章

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 (……いや、でも後ろ向かなくてもよかった……過剰、だったかなぁ)  衣擦れの音を背中で聞きながら松浦は自分の反応を少々悔やみ肩を落とした。  背後で布団に座る気配がしたので松浦はそのまま立ち上がり逃げるように障子へ向かった。  過剰に反応してしまったけれど、宮倉は酔っているのだから多少のおかしさには気が付かない筈だ、明日には忘れているだろうと思う。  挙動不審だと思われる前に出ていきたい。  「じゃあ戻るから、宮倉はしっかり休んで、」  出て行こうとする松浦を宮倉の低い声が止めた。  「松浦さん、俺に何か言うことありませんか?」  (言うこと?)  松浦は首を傾げながら振り返った。  「……いや、何もないけど、」  目をぱちぱちさせた松浦を布団で胡座をかいた宮倉は観察するように下から見上げる。  「あるでしょう?」  宮倉から目を反らした松浦はだんだんと不安になってきた。  (言うことはないけど)  宮倉に言うことはないけれど、知られたくない事は……あるといえばある。  (まさか、)  松浦は固唾を飲んで宮倉を見返した。  「いや、ないよ、」  弱く返す声に宮倉はふっと笑った。  「俺の事、つけ回してるのに?」  血の気が引くという言葉を初めて実感した。目の前がすうっと白くなる。  なにも言えず固まった松浦に宮倉はうなじをぼりぼりと掻きながら追い討ちをかける。  「結構前から。何か目的があるのかと思ってそれとなく調べたけど、違うよな?あんたただのストーカーだろ?」  「……」  「……」  「……いや、それ勘違いだよ?つけ回すって、何の事?」  鼻で笑うように、さも面白いことを聞いたように、松浦は笑顔で宮倉を見返した。  一瞬魂を抜かれた。  真っ白になりつつあった思考をフル回転し、誤解で逃げる、それに徹する。  嘘をつくのは下手じゃないと松浦は自身でそう思っている。  今まで一度として自分を晒さず生きてこれたのだから。  絶対に知られたくない。 絶対に。  笑う松浦に片眉を上げた宮倉が鋭く見上げた。
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