第1章

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 頷くと白井は眉をひそめ、おっさんだからいんじゃない?…と呟いた。  「あらあら、まだ若いくせに」  女将が並々と注がれたジョッキを白井に渡す。  「いや?、二十代なら若いって言えるけどさ、三十代は年でもないけど若いとも言えないよ」  「そう?あたしから見たら若いけどねぇ」  見た感じ六十代半ばの女将は苦笑いで松浦にジョッキを渡した。   「乾杯」  かつんをジョッキをあわせると白井はぐーっ一気に半分あけた。  こうやってさしで飲むのは二ヶ月ぶりだ。  奥から出てきた女将は先付と卵焼きをテーブルに置いた。  「お、卵!!」  「二人とも好きだったでしょう」  「あ?、串ものも食べたいなぁ」  白井が箸を割りながら見上げると女将はにっこりと頷いた。  「松浦さんは何かある」  「じゃあ、……このきんめの煮付け……」  「分かったわ、待っててね」  注文をしてる間に卵焼きが半分無くなっていた。  白井を見るとつり目をにっこりと細めまた一片ポイと口に入れた。  ここは料理が美味しい。家庭料理ばかりだけどどれも濃すぎず薄すぎずだしが効いていて食べるとほっこりする。  質素で地味な店構えの居酒屋がいつ来てもほぼ満席なのも頷ける。  特に松浦はこの卵焼きが好きだ。普段は調理場へ詰めている旦那が作っているがこれだけは女将が作っているらしい。  ふんわりして少し甘い。  白井もこれを松浦が好きだと知っている筈で…  恨みがましく白井を見る松浦を気にする様子もなく、白井は「やっぱ美味いわ」と感心しながらまた一片口に入れた。  松浦は調理場へ向かう女将の背中に「卵焼きをもう一つ」と声を掛けた。  愚痴ともつかない日々の話をぽつぽつとしながら酒好きの白井はかぱかぱとグラスを、最近お弁当ばかりの生活だった松浦は次々と皿を空けていく。
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