第1章

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 「唯人はいいよなぁ?」  酔いが進んで、しつこい程そう白井は繰り返す。  「……う?ん、まぁ、恵まれてるかな」  飲めば毎度の事なのでふんふんと聞き流しながら松浦はウーロン茶のグラスを持ち上げた。  「白井は仕事出来るから四課を任されたんだよ」  「……んな事分かってるけどぉ」  ひょっとこみたいな口で胸を反らした白井が可笑しくて松浦は肩を震わせた。  同時に昇進、立場的には変わらない白井と松浦だったが事情が少し違う。  「ここ何年、下しかいなかったからさ、やっぱ歳上がいると気ぃ使うよ」  「それはそうだよなぁ」  松浦はそれまでいた営業二部三課の課長に、白井は営業一部四課の課長にそれぞれ就いた。  気心の知れたメンバーで引き続き仕事ができる松浦と環境が変わった白井とでは同じポジションでも大きく違うと思う。  「まぁ、飲んだら」  白井の猪口に酒を注ぐ。  酔うと愚痴が溢れるけれど、白井は四課課長の内示を受けた時その場で承諾している。  返事を引き延ばしていた松浦の背中を押したのも白井だった。  ぶつぶつ呟きながら酒を舐める男は少し顔が赤い。  酔ってるなぁ、と思いふっと笑みが溢れる。  白井と松浦は同じ身長で、顔は全く似ていないけれど後ろ姿が似ているそうで先輩から兄弟のようだとからかわれた。  明るく気さくな白井と大人しい松浦は性格自体は真逆だがなんとなくうまがあいよく飲みに行っていたが、三年目に同課配属になってからはお互い仕事のサポートをするようになった。  白井は仕事が出来る。つい一つの件にのめり込み工場とクライアントの間を上手く調整出来ない自分とは違い、白井は視野が広く交渉能力が高い。  ぶつぶつ言ってはいるけれど、きっと上手くやれてるんだろうと思う。  ふふっと笑った松浦に頬杖をついた白井が「なんだよ」と呟いて観察するように目を向けた。  「唯人今日はよく食うなぁ」  「え?そうかな……」  「お前さ、ちゃんと食ってる?最近また痩せただろ」  ふらふら動かしていた実の無くなった串で松浦をぴしっと指した。  あぶない。  串の先が鼻のすぐ先で松浦は眉をひそめた。  白井はちょっと飲み過ぎだ。平日なのに。  「うーん、食べれない日もあったかな」  向けられた串を取り上げて皿に置くと肩をぽんぽんと叩かれた。
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