39人が本棚に入れています
本棚に追加
２階にある自室に篭り明日、自分がしなければならない事柄をまとめてみようとノートを開いた。
――香織さんの最期の願い。彼女の想いを全部叶えてあげたい。
出逢ったときに言っていた台詞を、一生懸命に思い出してみる。
「確か……コンクールで弾く課題曲を、音楽室にあるピアノで練習をしていたんだったよな」
コンクールという文字を、何とはなしにノートに書いてみた。練習していた曲を弾きたくて、あの場所に留まっている香織さん。もしかしたらただ弾くだけじゃなく、それを誰かに聴いてもらいたいっていう、想いがあるかもしれない。
「そうだよ、きっと。聴衆が必要かもしれない……」
コンクールの文字の横に聴衆と書いて、腕を組んでしまった。
ここで問題が発生する。憑依された自分の姿を、人目に晒すことになるから。
「う～ん、それだけは避けたいんだよな。憑依されて上手くコントロール出来なかったことを考えると、何をしでかすか分からないワケだし」
香織さんが暴走するはずがないだろうけど、正直なところ不安は拭えない。
「だけどひとりでも多くの人に聴かせる事が出来たらきっと、すっごく喜ぶんだろうな」
俺が出した小さいピアノを見て、嬉しそうに微笑んだ姿が思い出された。それよりも実際のピアノで弾いて人に聴いてもらった方が、絶対に悔いが残らないだろう。
「俺が出来ることは、何か――」
自分の出来そうなことを考えながら試行錯誤を繰り返し、ノートに書き込んでみる。それをもとに次の日、岡田と鈴木に声をかけてみた。
「おはよ。コンテストの写真、いいのが撮れたか？」
机の上に広げられていた数枚の写真。朝からふたりして、話しこんでいたところを掴まえる。
「おはよ、三神。どれにするか絞り込み中さ。それよか昨日の写真の件、お前の母さん何か言ってた？」
「それがさ、ふたりにお願いがあって来たんだ。今日の放課後、暇？」
俺の言葉にふたりが顔を見合わせた。かなり不安げな表情を浮かべている。
「なになに、俺らお祓いにお前の家に行かなきゃならないとか？」
怯えた顔して鈴木が言うと、岡田は顔を青ざめた。
最初のコメントを投稿しよう！