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ピアノを元の状態に戻し、聴いていたふたりにぺこりとお辞儀をして、ゆっくりと音楽室を出た。開けっ放しになっている扉から拍手がずっと耳に聞こえてくる。
「ありがとう。私すっごく嬉しかったよ。さっさとあの世に連れて行って」
自然と瞳に涙が滲んでしまった。目の前の景色がどんどんぼやけていく上に、胸が切なくて苦しい。香織さんの喜びを体で感じているはずなのに、どうして苦しんだろう?
(俺の家で送ってあげる。このまま帰ってくれないか?」
彼女をきちんとした場所で見送りたかった。こんな風に関わったからこそ尚更。
「分かった。優斗くんのお家、教えてね」
滲んだ涙を拭って前を見据え、ゆっくりと歩き出したのだった。
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