Cyber Spider

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Cyber Spider

長い夏休みが明け、また気だるい大学生活が始まってそろそろ一か月が経とうとしていた。暦の上ではもう九月も終わろうかという頃だというのにも関わらず、まだこの地域では夏の残暑が厳しかった。無駄に広く入り組んだ造りの校舎を回ってなんとか指定の教室にたどり着き、額にわずかに滲んだ汗を拳で拭うと、俺は辺りをきょろきょろと見回した。世はこれをキョロ充と揶揄しているそうだが、そんなことに構っていられない理由が俺にはあった。 「……あいつ、今日もいないな」 同じゼミに在籍している沖田という男子学生が、この所姿を現さないのだ。越境入学のため孤独だった俺と沖田はすぐに意気投合し、それなりに仲の良い学生生活を互いに過ごしていた。夏休みの最中にもゼミ生で集まり食事会を催したのが彼を最後に見た瞬間だったが、それの限りでも別段いつもと変わらない様子で、何か思い悩んでいる訳ではなさそうだった。成績だってそんな退学を余儀なくされるほど悪い訳でもない。まさしく八方詰まりなのであった。 そんな風にゼミを三度も無断欠席しているため、もう二度休むと単位の履修ができず留年してしまうとゼミの教授は言い、一番仲が良さそうという理由で俺に彼の不登校の理由を探る調査の白羽の矢が立ったという訳なのだ。 それなりに仲の良い知人が多かった彼は他にも知人がおり、勇気を出してたまたま同じ教室で受講していたその知人らに消息を聞いてみるも、誰も彼の行方を知らなかった。ただ、その中の一人の青年が気になる事を俺に教えてくれたのだった。 「そういや沖田の奴、新しくゲーム用のパソコン買ったって言ってたな」 「確かにネトゲやってるとラグとかあったりロード時間長かったりするとイラッとするけど、さすがに専用PC欲しいとは思わんわー。沖田って本当影響されやすいのな」 なんでも、夏休み終了間際に彼ら知人宛に、そのネットゲームをやるのに適した環境を有する高いスペックのパソコンを買ったことを報告する旨のメッセージが届いたのだという。 「まさかネトゲにはまりすぎて廃人かー?」 「ないない、あんなん都市伝説っしょ」 そう笑いながら言う友人達であったが、俺は笑えなかった。 どうもその怪しいパソコンの購入と、この失踪には何か共通点があるような気がしてならなかったのだ。その講義中はずっと、その整合性について必死に考えを巡らせていた。
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