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0.プロローグ
バイト先で倒れた俺、天宮倖(アマミヤ コウ)が次に目を覚ますとそこは知らない白い天井で、少しだけ浅く呼吸をすると、独特な臭いが鼻に掛かった。
そして、その臭いですぐにそこがどこかの病院なのだと知った。
『ごめんね、倖……。ごめんね……』
そう言って、俺の手を強く握りながらいつも明るい母が泣いていた。
その声で起きた俺だったが、胸が痛くて目も開けず、起き上がれず、泣いている母と医者である男の声を目を閉じたまま黙って聞くしかできなかった。
『このままでは、倖君は持って3年の命です……』
医者が母にそう告げたのが聞こえた。そして、母が更に泣き出したのが分かった。
その時俺は、自分の命があと3年なのだと知ってしまう。
『どうか、手術を受けて下さい……。受ければ助かる命なんです』
そして、医者のその言葉に俺は内心で笑ってしまう。
そんな金あるわけない、と……。
だからこそ、母はこんなにも泣き、こんなにも俺に謝っているのだ。
『ごめんね…ごめんね倖……。私を許して……』
俺は手術なんかするつもりは無いと、その場で叫びたかった。でも、その声さえ出せなかった。
ただ、残す母と弟に、どれだけの金を残せるか、それだけを考えた。
“生きたい”なんて、俺は全く思わない。
世の中、金が全てだから。
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