純然たるファクト

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 ――……背中をさすられた。  顔を上げる。  ああ、石垣君――違う、これは。 「どこに行ったかと思って探しやーた。めちゃんこ焦ったわ。どうしたんだ、おみゃあ、大丈夫きゃ?」  その、名古屋弁。ああ、ああ。現実はまさしくこれに違いない。これが、事実。起こっていること。 「康太、好き? 僕を好きって言って?」  泣きじゃくりながらその胸に抱きつくと、康太が抱きしめてくれて、その、温かさを全く感じない、感触。 「好きだがよ。おみゃあだけが好きだ。愛してゃあ。だでほら、まっと抱きしめさせろ」  ほら、ね。こっちが本当の、今。だって僕、この瞬間。  満面に笑みを浮かべてる。  END
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