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「最近――物語の頁が黒く塗りつぶされるという出来事がこの図書館で起こっています」
案内されるがままだった俺に、一冊のハードカバーの絵本をこちらに見せる。表紙は紺色の背景に、黒猫と白い鳥が描かれていた。
「これは見ての通り絵本です。喋る黒猫【ノワール】と彼のともだちの白い鴉【ヴァイス】の物語。しかし――頁が黒く塗りつぶされ、物語はある一定の場所で止まってしまっているのです」
黒く墨のような液体でぐしゃぐしゃに塗りつぶされた頁。その前の頁の挿絵ではまるで誰かを待っているように、一匹で黒猫が月を見上げていた。
『彼を迎えにくる者はもう、この世界のどこにも存在していないのです』という文でendが打たれている。頁はまだ半分以上もあるというのに、それ以降は墨のような液体で全て塗りつぶされている。
「誰が、なんのためにこんなことをしているのかは謎ですが――こうした物語は日に日に増えているのです。ここに描かれているのは創造神様たちが書き留めた物語。こんな改変は許されることではありません」
誰かがやっているなら、監視カメラとか仕掛ければ一発なんじゃ?
「……そういうことは知っているのですね。私が独自に調べた結果、この現象は物語の内部から起きている現象だということがわかりました」
メルヒェンの言葉がよく理解できない。物語の内部? どういうことだ? よくわかんねえ、わかりやすく説明してくれ。
「わかりやすく――と申されましても。どうやら、神の書いた書物【ストーリア】に【本の蟲】が入り込んだようなのです。この図書館は古いですからね。本の蟲は文字を食べ、その内容を書き換えてしまうのですよ」
文字を食べる蟲……? なんだそれ。そんなクソみたいな蟲がいるのか?
「いるんです。そして、それを追い出せるのは司書神だけなのです。今まではあの怠惰な神様がやってくださっていたのですが――腕は確かなのですが怠惰過ぎて怠惰過ぎて」
それはそれはご愁傷様です。って、司書神だけってことは……俺にそれをやれと?
「理解が早くて助かります。貴方は存在が危うい神。その姿は物語に違和感なく溶け込むことでしょう……多分」
多分? 今まで多分つったろ? ちょっと待てクソ。
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