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 黒髪に猫のような耳を持つ少年はその赤い瞳で月を眺め、白く黒い瞳の美しい少女を待っています。  眺めていた紅い月から何かが落ちてくるのが見え、少年はとっさによけようとしましたが、それはどんくさい少年には無謀なことでした。  月から落ちてきた青年の下敷きになる少年。衝撃で、その姿は服を着た黒猫へと変わってしまいます。 「クソが……なんで空から落ちて来なきゃならねーんだよ……マジでクソじゃねえか――」  青年は起き上がると黒猫を踏んづけていることに気づき慌ててその場から離れました。黒猫は目を回し、その場でぐったりとしています。 「わっ、悪い! 生きてるか!?」  その猫を抱き上げ、青年はあることに気づきます。自分の姿が認識できる、と。手も、体も、声も。全て自分の視界に、耳に入ることに気づいた青年は黒猫を投げ捨て丘の下を流れる川に映る自分の顔を確認しました。 【今の俺の容姿は――銀色の髪に金色の瞳。それと、頭の上についた狼のような耳。】 「って、耳!? なんだこれ!? 俺生前こんなもんつけてたの!? クソなの!?」  そんなわけないでしょう。貴方は稀薄な存在、神格が薄れ個性がない存在。故にどんな書物にも染まってしまうのです。その姿はこの世界を歩くのに違和感がないものだと思われます。  そうそう、『読み手(ナビゲーター)』はメルヒェン。メルヒェンでお送りしています。 「え、何? お前から見て俺はどうなってるの?」  どうなってると申されましても。ただ絵本の登場人物になっているとしか。その姿もなかなかかっこいいですね。ちなみに銀色の尻尾もついてますよ。 「マジかよ!? 本当に狼じゃねえか!」  残念ながら犬ですけどね。さあ、ナビゲーションを続けます。黒猫はしばらく目を回していましたが、やがてむくりと起き上がり、二足歩行で青年に駆け寄ります。 【二足歩行なのかよ。……ところでメルヒェン、お前の声とか俺の思考ってこの黒猫に聞こえてるのか?】  私の声は貴方にだけ。貴方の思考は私にだけしか聞こえません。私には貴方の思考は【】で括られて読むことができますね。便利です。 【おおそれは便利……で、一体何をすりゃ――】 「キミは、誰? 空から落ちてきた?」 「えっ……あ、ああ……その」 【どうやって答えればいいんだよ!?】  なるべく違和感なくお願いします。貴方はこの物語の一員なのですから。
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