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「・・・そういえば、買い替えるとか言ってたF***は、どうしたのよ。彼女にプレゼントしたの?」
「・・あれは・・・」
和哉が言葉に詰まった。そのまま黙り込んでしまった夫を見て、妻の頭に血が上る。
「やっぱり、そうなのね・・・あなたってひとは・・」
自分でも気づかないうちに美麗は立ち上がっていた。ソファの上に置いてあった分厚いクッションを一つ掴んで、夫めがけて力いっぱい投げつける。
七十六キロの巨体から放たれたクッションは、鈍い音をたてて、見事に和哉の頭に命中した。
「いたっ!」
「なによ!」
彼女は二つ目のクッションを手に取ると、両手で高々と抱え上げ、和哉の目の前に立ちはだかった。そのまま渾身の力を込めて、夫の頭の上に大判のクッションを振り下ろした。
「あたしがどれだけ頑張ってると思ってるのよ!」
ばすっ、と怒りに満ちた音がリビングに響く。
「家のために!娘のために!」
ばすっ。
「おい!やめないか!」
「それなのにっ!あなたはっ!若い女とっ!」
ばすっ。ばすっ。
「痛い!落ち着けって!」
和哉は必死で頭をガードしながら、部屋の外へ逃げ出した。その背中を、美麗の遠吠えのような声が追いかけた。
「DNA鑑定でもなんでも、やればいいんだわっ!誰がなんと言おうと、あの子はあなたの子供よ!」
広いリビングでひとり取り残された妻は、肩で息をしながらどっとソファにへたりこんだ。暴れながら怒鳴りちらした贅肉だらけの体が、じっとり汗をかいている。
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