<1>疑惑

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「・・・そういえば、買い替えるとか言ってたF***は、どうしたのよ。彼女にプレゼントしたの?」 「・・あれは・・・」  和哉が言葉に詰まった。そのまま黙り込んでしまった夫を見て、妻の頭に血が上る。 「やっぱり、そうなのね・・・あなたってひとは・・」  自分でも気づかないうちに美麗は立ち上がっていた。ソファの上に置いてあった分厚いクッションを一つ掴んで、夫めがけて力いっぱい投げつける。  七十六キロの巨体から放たれたクッションは、鈍い音をたてて、見事に和哉の頭に命中した。 「いたっ!」 「なによ!」  彼女は二つ目のクッションを手に取ると、両手で高々と抱え上げ、和哉の目の前に立ちはだかった。そのまま渾身の力を込めて、夫の頭の上に大判のクッションを振り下ろした。 「あたしがどれだけ頑張ってると思ってるのよ!」  ばすっ、と怒りに満ちた音がリビングに響く。 「家のために!娘のために!」  ばすっ。 「おい!やめないか!」 「それなのにっ!あなたはっ!若い女とっ!」  ばすっ。ばすっ。 「痛い!落ち着けって!」  和哉は必死で頭をガードしながら、部屋の外へ逃げ出した。その背中を、美麗の遠吠えのような声が追いかけた。 「DNA鑑定でもなんでも、やればいいんだわっ!誰がなんと言おうと、あの子はあなたの子供よ!」  広いリビングでひとり取り残された妻は、肩で息をしながらどっとソファにへたりこんだ。暴れながら怒鳴りちらした贅肉だらけの体が、じっとり汗をかいている。
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