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エントランスホールで何度も頭を下げる深澤と業者を、美麗は
「はい、お待ちしています」と、丁寧にお辞儀して見送った。
結果は聞かなくてもわかっているのだけど。
*
十日後、深澤から電話があった。99.999パーセントの確率で、お嬢様は社長のお子様だと証明されましたと、人の良い弁護士は嬉しそうに告げた。
「奥様は、さぞかし嫌な思いをされたことでしょう。本当にこの度は、申し訳ありませんでした」
「いえいえ、深澤さんに謝っていただくことじゃありませんわ。お気になさらないで」
確かな自信があったとはいえ、目に見える形で結果が出ると、やはり美麗も嬉しかった。自然と、声が弾む。
「あの・・主人はなにか言っていましたか」
「・・・そうですね、納得しておられたようです」
――それだけ?
「近いうちに社長から奥様に直接、連絡がいくと思います。鑑定書のコピーは私の方からご自宅へ送らせていただきますので、二、三日、お待ちください」
「・・わかりました、よろしくお願いします」
物足りなさを感じながら、彼女は電話を切った。妻に悪いことをした、の一言ぐらい深澤にことづけてくれてもいいのに。
だが、これで麗華が正真正銘、和哉の子供だと証明できた。夫は自分の非を認めて、真悠子と別れてくれるに違いない。すぐにまた、家族三人の幸せな日々が戻ってくるだろう。
晴れ晴れとした気持ちでキッチンへ向かった美麗は冷蔵庫を開けると、今朝届いた『デ*ル』のザッハトルテの箱を取り出した。
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