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頭痛と吐き気で美麗は目がさめた。全身が重くてだるくて、ひどい気分だ。
夕べ、気弱な弁護士から屈辱的な書類を見せられたあと、冷蔵庫に入っていた缶ビール三本を全て飲み干し、それでも足りずに、ワインセラーからお歳暮でもらったワインを取り出すと、泣きながらフルボトル一本をほとんど空にしてしまった。
――そういえば、前にも同じようなことがあったわ。
自分がまだブサイクだった頃、美人の同僚の当て馬のように利用された苦い経験。そのあと、人生を一変させる出来事があったのだ。
あの頃は突然与えられた美貌に酔いしれて、まさかこんな辛い日が来るとは予想もしなかった。
――人生山あり谷ありって、本当ね。
彼女はソファの上でむっくりと起き上がった。昨夜はベッドルームにも行かず、あのままリビングで眠ってしまったらしい。
とりあえずシャワーでも浴びようと立ち上がったとき、テーブルの上でスマホが鳴った。
夫からラインのメッセージが届いている。
”今夜、もう一度話をしたい”
よっこらしょと再びソファに腰をおろして、美麗は返事を送った。
”弁護士なんて、よこさないで”
男らしく自分が来たらどうなのよ、と彼女は心の中でつぶやく。
”僕が行く”
やっと、待ち望んでいた返事が来た。
”待ってるわ。逃げないでよ”
まるで決闘の約束のようなやりとりを終えると、美麗はスマホを置いて、深い溜息をついた。
――何もかも、あの女のせいだ。
藤堂真悠子。和哉の若い美人秘書、そして愛人。
目をつむると、いやでも脳裏に真悠子の姿が浮かんだ。長いストレートヘア、ハーフのようなはっきりした顔立ち、スーツの上からでもわかる大きな胸と尻、くびれた腰、モデルのような脚。
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