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でも、家にはまだB***がある。三人家族で車が二台あれば十分だ。一番派手な車を手放したのは、いよいよ来年、娘の麗華(レイカ)が小学部にあがることもあって、夫も少しは大人になった証拠だろう。
もっとも、最近ではそのB***も、美麗が自宅の車庫で目にすることはあまりないのだが・・・。
その時、ガラガラと幼稚園の門の開く音がした。
「せんせい、ごきげんよう」
「はい、ご機嫌よう」
行儀よくシスターに挨拶して、園児たちが次々と迎えに出た母親の元へ駆け寄る。
美麗もよっこらしょと車を下りて、愛娘の姿を探した。やがて一番最後に姿を現した麗華は、なぜかシスターに手を引かれて悲しそうに下を向いている。
ただならぬ様子に、美麗は娘がなにかトラブルでも起こしたのかと心配になった。
「こんにちは、浅井でございます。あの、娘がなにか・・・」
不安げに尋ねる母親に、担任教論のシスターはにこやかに会釈した。
「浅井さん、こんにちは。実は、午後のお祈りの時間に、レイちゃんが男の子にからかわれて泣き出してしまいまして・・」
「ええっ」
「それで、ついさっきまで園長室で過ごしていただきました。園長や私が交代でわけをきいても、詳しいことはお話ししてくれませんでしたが」
「まあ・・」
美麗は驚いて麗華を見るが、娘はうつむいたままだ。
「おケガをされたとか、そういうことはありません。ささいなケンカは子供さんの間ではよくあることなので、特に心配はないと思います」
「それは・・お手数をおかけして申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げる美麗に、シスターはいえいえと手を振った。
「また、おうちでわけをきいてあげてくださいね。時間がたつと、お話してくれるかもしれませんので」
「はい、そうします。本当に、すみませんでした」
七十六キロの巨体をきゅうくつそうに折り曲げて、もう一度美麗は頭を下げた。子供がトラブルに関わった場合、たとえこちらに非がなくても、親はひたすら頭を下げてあやまらないと心象が悪くなる。
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