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家に帰ると、麗華はすぐに二階の自室に閉じこもってしまった。
「レイちゃん、おやつはレイちゃんの大好きな『と*や』の羊羹よ。ママ、レイちゃんといっしょに食べたいな」
内線で、甘い物をエサにつってみるが、反応はない。仕方なく美麗はキッチンで羊羹一棹を大きく四つに切ると、端から順に黒文字をぶすりぶすりと突きたてて、一人で熱い茶を飲みながら一気に平らげた。
夕食時になって、娘はやっと階下に降りてきたが、いつも通りの母娘二人だけの食事が終わるやいなや
「あしたから、もう、ようちえんにはいかない」と宣言して、すぐにまた二階へ上がってしまった。
娘の初めての反抗に母親はうろたえた。何よりも品行方正が求められる名門私立幼稚園。登園拒否なんてもってのほかだ。
迷った挙句、美麗は和哉にラインでメッセージを送った。
”大事な話があるの。今日は家に帰って”
しばらく待ったが、未読のままだ。
”麗華が幼稚園に行かないと言ってるの”
やはり反応はない。
仕方なく、会社の社長室直通の番号に電話をかけると、美麗が一番話したくない相手が出た。
藤堂真悠子(トウドウ マユコ)、やり手の美人秘書だ。
「藤堂さん、こんにちは。いつも主人がお世話になります」
表向きは礼儀正しく穏やかに挨拶をするが、内心ではバチバチと火花が散っていた。
「奥様、ご無沙汰しております。こちらこそ、お世話になります」
「主人と話がしたいのですが・・」
「申し訳ありません、ただいま社長は会議中で、電話にはお出になれません」
事務的な相手の口調が、かえって美麗の神経を逆なでする。
――ウソつけ、すぐ側にいるでしょう。社長室のソファで、二人でハダカの会議やってんじゃないわよ。
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