<1>疑惑

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「では、その会議が終わったら自宅へ電話するよう伝えてください。子供のことで大事な話があると」  彼女は『子供のことで』の部分を強調して言った。真悠子に対するせめてものイヤミだ。イヤミが通じたのか通じていないのか、若い美人秘書は声色一つ変えず「承知しました」と答えて電話を切った。 ――可愛げのない女。  美麗はいまいましそうに舌打ちすると、冷蔵庫から白いケーキの箱を取り出した。ネットで注文して、今日の午前中に宅配便で届いた『ハ**オブ**ー*ーズ』のチーズケーキ。  それを四つに切り分けると、フォークをぐさりぐさりと時計回りに順に突き刺し、熱いコーヒーとともに一台まるごと平らげた。  服やアクセサリーを買うと夫から小言をくらうため、最近では高級スイーツをネットで取り寄せるのが、彼女の唯一のストレスのはけ口になっている。毎日のようにカロリーの高い間食をとるため、体重は増えていく一方だ。      *  六年前に娘が生まれてから、夫は妻を抱かなくなった。出産後、体型も体質も変わってブクブク太ってしまったのが原因だろうと思い、美麗はしばらくの間ダイエットに励んだが、成果はほとんど見られなかった。  彼女が夜、スケスケのランジェリーを身につけて気を引こうとすると、和哉は寝室を別にした。もともと遅かった帰宅時刻がさらに遅くなって日付をまたぐようになり、麗華が幼稚園に上がる頃には、夫は週に二、三日しか家に帰らなくなった。  それと同時に、娘に対する関心も薄れていった。  その年の夏、突然、若い女が自宅を訪れた。 「奥様、はじめまして。藤堂真悠子と申します。社長の秘書を務めさせていただいております」  洗練されたお辞儀をして顔をあげた真悠子は、日本人離れした彫りの深い顔立ちに、長いストレートヘアが似合っていた。  地味な紺色のスーツの下に、和哉好みの体型が隠れているのがわかる。
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