<1>疑惑

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「秘書?秘書はもっと年配の方だったと思いますが・・」  会社の行事や関係者とのパーティーで、美麗は和哉の秘書と何度か会ったことがあった。だが、髪をうしろでひっつめてメガネをかけた、ぱっとしない中年女性だったはずだ。  いつの間に、こんな若くて綺麗な女の子にかわったのだろう。 「先月、前の方が突然お辞めになって、中途採用で私を雇ってくださったのです」 「・・・」  夫の外泊が増えた頃に、突然、若い美人秘書の出現。どう考えても怪しい。 「社長は今日からしばらく東京へ出張されるのですが、資料ファイルのいくつかがご自宅にあるとのことで、私が取りに参りました」 「どんなファイルでしょうか」  真悠子が美麗にファイルの色と形状、ラベルを説明する。 「それからスーツとカッターシャツとネクタイ、それに靴も、何セットか持ってきてほしいとのことでした」  この言葉を聞いて、美麗の胸に怒りがこみ上げてきた。 ――当分、家には帰らないつもりね。  しかも着替えを愛人に取りにこさせるなんて、一体どういう神経をしているのかしら。あたしが気づかないとでも思っているのなら大まちがいよ。  彼女とデキていることぐらい、女のカンですぐわかるわ。 「わかりました、少々お待ちください」  冷静を装ってそう答えると、美麗は求められたものをテキパキと用意した。  心の動揺を真悠子にさとられてはいけない。社長夫人たるもの、愛人が現れたぐらいで、いちいち取り乱すものじゃないわ。  真悠子はそれらを受け取ると、大事そうに車に運び込んだ。 「お手数をおかけしました。突然、お邪魔して申し訳ありませんでした」  一礼して運転席に向かう彼女の下半身に、美麗はいやでも視線を持って行かれた。ミニスカートからスラリと伸びた二本の脚と細い足首、高いヒール。  どれも男を誘惑するのに有効な武器だ。しかも彼女の武器は完璧に手入れされている。
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