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「すいません。人は見掛けによらないのですね」
「見掛け倒しですまねえな」
「? 意味が違いますよ? それに感謝してるんです」
少女は帽子を脱ぐとパタパタとクロウを扇いだ。
「せめてもの恩返しです」
「恩返しもなにも、こうしてオモリを担いでりゃ、鍛錬になる」
「酷いです。オモリなんて」
丘を気をつけながら降りると、ゲルダは左手に広がる森を指差す。
「すいません。あの森の奥までお願いします」
「いいのかよ? 俺は魔術師でもねえよ」
「客人はもてなせと言われてるんです」
クロウは森をずんずん進む。冷え込んだ新鮮な空気が胸を満たしていく。クロウは辺りを見渡した。
景色があまり変わらない。
ゲルダに言われるままに歩き続ける。
やがて、森が開ける。
姿を現したのは、木製の館だった。不思議な空間に戸惑う。そこは物語のように異質なものだった。
「魔女の館かぁ。話には聞いてちゃあいたが、こんなでけえのか」
「ありがとうございます。ここで下ろしてください」
ゲルダがクロウの背中から下りると、館から人形が顔を出した。人と同じ背丈だが木で出来ているようだ。布の服を着ており、遠目では人と見違えそうなふうぼうだった。
「なんだこいつら!?」
「魔傀儡です。わたしたちは彼らとともに過ごしているのです」
「世話係ってとこか? なら、薬草もこいつらにまかせりゃいいんじゃねえか?」
「あなたは魔傀儡を外で見たらどう思いますか?」
「……腰抜かすかもな」
ゲルダは担架に乗せられて、屋敷に入っていった。
「クロウさんもどうぞ!」
あとに続くように屋敷に入ると、不思議な香りが立ち込めていた。
鼻にはつかないが、肩の力が抜ける心地よい香りだ。
「落ち着くな」
「少し待っててください。イチゴジャムとパンがあります。クロウさんに紅茶も用意してあげてください」
木の人形は慌ただしく動き出す。その様子をクロウは呆けた顔で見入る。
「ゲルダ。お客様ですか?」
「お師匠さま!」
「本物の魔女様か」
紅茶をズッと啜るとクロウは魔女を見つめた。
相変わらずの優しげな雰囲気、ラックの話す御伽噺の魔女とはだいぶ違った。というか、彼も本物の魔女を知っている。知っててなお、馬鹿にしたように誰かが綴る物語を馬鹿にしたのだ。
鷲鼻でもないし、怪しげな薬を釜で作ってるわけでもない。
昔の人間は魔女を知らなかったそれだけだ。
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