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「昨日はどうも」
「弟子が苦労をおかけしたようで」
魔女は薄い紺のケープをし、にっこりと微笑んでいる。
「んなこたねえよ。どっちかっつうとありがたいな。こうして、美味い飯を食わせてもらってる」
「少しは口調」
クロウは目線を逸らさず、ポタージュをすくう。
「いい食べっぷりですね」
「美味しいな。ゲルダが少し羨ましい」
魔女はクロウの目の前の席に腰掛ける。
「あなた、何かわたしに言いたいことがあるのでしょう」
クロウはスプーンを止めると軽く頷く。
「『外』に行きてえ」
「『外』!? クロウさん、本気なのですか?」
「ゲルダは別にここにいてもいいですけど、安静にしてなさい」
ふう、と息を吐くと、魔女は口を開く。
「『外』はもう人間の住める場所じゃありません。それはお分かりですか?」
「時折、海に変な影が見えるし、何かおぞましいモノの鳴き声も聞こえる。海は結界の範囲のみ穏やかだ。婆さんの魔法はありがたいもんだと思うよ」
クロウはパンを齧りつつしゃべり続ける。
「でもな、俺たちはその『外』に憧れてるんだ。この想いは止められねえ。それに俺の意志よりあいつの方が強い。ラックだ。アイツはそのことだけを夢見てたんだ。それを消しちまうのはどうかと思うんだ。アイツ、すっかりしょげこんでる」
「わたしにはどうすることもできません」
「でもよ、俺に魔術を教え込むこたあ、出来んじゃねえか?」
「クロウさん?! 何考えてるんですか!」
クロウは口角を上げ、言う。
「魔剣士様ってとこかなぁ?」
「……ったく、無理が過ぎます。わたしでさえ、ここまで来るのにどれだけ苦労したと思うんですか?」
杖を付き歩くゲルダは頬を膨らせる。
「さすがに許可貰えねえか」
森を抜けると、すっかり辺りは明るく人々は仕事に勤しんでいた。
「クロウさん、学校は?」
「今日はいいや」
ぶっきらぼうに答えるクロウをゲルダはじっと睨む。
「……行くよ。ああそうだ、お前さんは見習い弟子ってとこなのか?」
「そんなものじゃないです。もう、行程はほとんど済んでいます。あなたみたいに暢気してる暇などありませんし、魔学は素晴らしいものなのです」
「ふーん。じゃ、またなんかあったら手伝ってやるよ。あばよ。小さな魔女さん」
「今日は助かりました。また」
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