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この島は断崖絶壁で覆われており、島内はなだらかな起伏が多く、山、丘が点在している。雲が目前に下りることもあり、標高が高いこともわかる。季節的に今は寒い。
朝霧の中、もっさりとした葉が生い茂る魔女の森から少女が一人。てくてくと小さな歩幅で歩いている。
少女はゲルダ。
短く切りそろえた髪を帽子に詰め込み、頬を緩ませている。町に馴染むために少しのオシャレ。と言っても、大きな三角の布を肩にかけてにんまりとするくらいだが彼女はそれでも心晴れやかになる。
彼女は今日も師匠である魔女のお使いだ。丘を三つ越えたあたりにある青果店で果物を調達するのだ。
「リンゴ、ブドウ、イチゴ、ブルーベリー……後は瓶を三つ。途中でインクも買おう」
少し浮かれ気味に、足取り軽く歩く彼女の前に人影がひとつ。
目深に帽子をかぶり、両手をコートのポケットに突っ込んだ男がフラフラと歩いている。
「朝っぱらから酔っ払いかしら……?」
すれ違いざまによろけた男が彼女に寄りかかる。
「キャッ!! 大丈夫ですか?」
肩がぶつかり、ゲルダは慌ててその体を支えた。そのまま右足を突っ張り、必死で支えきると肩を貸した。
「ああ……ごめんよ。少し足が悪くて……」
露出度の少ない格好のその男。右足を押さえる仕草をして、うろたえた。
「診て差し上げましょうか?」
親切心でそう言うと、彼は両手の平を彼女に向けた。
「い、いや結構です。ありがとう、可愛いお嬢さん」
若く、少しどぎまぎした声。
ゲルダは首をかしげるとまた歩き出した。
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