0人が本棚に入れています
本棚に追加
季節は春、この時期には、島から『異界探求者』たちが島の外へと船出する日が来る。
『異界探求者』とはつまり、『外』の世界の様子見をするだけの仕事なのだが、それでも候補者は後を絶たない。それはまだ見知らぬ『外』の世界に憧れがあるからだ。
ラックもそれに憧れる少年のひとりだったが選ばれなかった。
まだ若い、未熟だ、と言われ、志願を聞き入れてもらえなかった。それもその筈。彼はまだ、15歳なのだ。
島の者、総出で彼らを送り出す。華々しい船出、大きな声援。年に一度の『外』の世界。人間がかつて栄えた世界。失われた大陸。
「じゃあ、行ってくるぜ」
「ローガン。どうか、死なないで」
ラックは師匠に告げる。この船旅は毎回死者が出る。
誰も戻ってこないということもあった。それはこの船出の厳しさを物語っている。
しかし、村の若者たちは行く。剣の師匠ローガンも同じだ。しかし、彼は25年間生きて帰ってきたのだ。いつしか、最年長者はローガンになっていた。リーダーも彼でないと務まらないとみんな心の中で思っている。
そして、
『見知らぬ何か』
を目にしたいのだ。
冒険。そんな言葉に心を躍らせ、若者たちは船出する。
「おい! 俺を連れてけ!」
ラックの影から飛び出すクロウ。
「こら、お前もダメだ。いくら腕っ節が強くてもな、それだけじゃダメだ。みんな『外』のことベンキョしてきたんだぜ? お前はちっとも知ろうとしない。行きたいならベンキョして、もうちっとここを鍛えるんだな」
モーガンはクロウの頭を小突くと、荷物を仲間に投げ渡す。どこかで馬のいななきが聞こえた、船には約10頭のの馬が居る。それで大地を駆け巡るのだ。
「ラック。いずれ来るとき、その時に僕と行くんだろう? 君だけが行くなんて許さない。君は僕のオトモなのだから」
「……ちっ」
クロウは大振りの剣をカチャカチャ鳴らし、小さな港を背ににする。
「ラック。クロウはお前さんの命令しか聞かないな」
「あれでもだいぶマシですよ。喚かない分」
出航の鐘が鳴る。
「置いてかれたら適わねえ。んじゃ、半年後、会おうや」
「ローガン! さよなら!」
大きな背中に力いっぱい手を振る。
出航は華々しいものだ。島の連中、総出の声援。
年に一度の大行事。
最初のコメントを投稿しよう!