ハジマリ

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季節は春、この時期には、島から『異界探求者』たちが島の外へと船出する日が来る。 『異界探求者』とはつまり、『外』の世界の様子見をするだけの仕事なのだが、それでも候補者は後を絶たない。それはまだ見知らぬ『外』の世界に憧れがあるからだ。 ラックもそれに憧れる少年のひとりだったが選ばれなかった。 まだ若い、未熟だ、と言われ、志願を聞き入れてもらえなかった。それもその筈。彼はまだ、15歳なのだ。 島の者、総出で彼らを送り出す。華々しい船出、大きな声援。年に一度の『外』の世界。人間がかつて栄えた世界。失われた大陸。 「じゃあ、行ってくるぜ」 「ローガン。どうか、死なないで」 ラックは師匠に告げる。この船旅は毎回死者が出る。 誰も戻ってこないということもあった。それはこの船出の厳しさを物語っている。 しかし、村の若者たちは行く。剣の師匠ローガンも同じだ。しかし、彼は25年間生きて帰ってきたのだ。いつしか、最年長者はローガンになっていた。リーダーも彼でないと務まらないとみんな心の中で思っている。 そして、 『見知らぬ何か』 を目にしたいのだ。 冒険。そんな言葉に心を躍らせ、若者たちは船出する。 「おい! 俺を連れてけ!」 ラックの影から飛び出すクロウ。 「こら、お前もダメだ。いくら腕っ節が強くてもな、それだけじゃダメだ。みんな『外』のことベンキョしてきたんだぜ? お前はちっとも知ろうとしない。行きたいならベンキョして、もうちっとここを鍛えるんだな」 モーガンはクロウの頭を小突くと、荷物を仲間に投げ渡す。どこかで馬のいななきが聞こえた、船には約10頭のの馬が居る。それで大地を駆け巡るのだ。 「ラック。いずれ来るとき、その時に僕と行くんだろう? 君だけが行くなんて許さない。君は僕のオトモなのだから」 「……ちっ」 クロウは大振りの剣をカチャカチャ鳴らし、小さな港を背ににする。 「ラック。クロウはお前さんの命令しか聞かないな」 「あれでもだいぶマシですよ。喚かない分」 出航の鐘が鳴る。 「置いてかれたら適わねえ。んじゃ、半年後、会おうや」 「ローガン! さよなら!」 大きな背中に力いっぱい手を振る。 出航は華々しいものだ。島の連中、総出の声援。 年に一度の大行事。
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