0人が本棚に入れています
本棚に追加
「クロウ。僕たちもいつか」
「そんときゃ、大将はラック。お前だな」
「よせよ。まずは生きれるようになろうぜ」
「ああ」
二人は港が静かになっても夕刻になっても、いつまでも水平線に目を向けた。
見知らぬ世界を覗き込むように。
人口は少なかれど、若者は多いこの島。
剣術の先生がいなくなり、ラックはいつもクロウと稽古に励んだ。
二人して野を駆け、洞窟を巡り、海辺で休み、けれども勉強はしっかりする。
そんな毎日が続く。
「強くならないと」そんな意志が彼らを駆り立てる。
寝る間も惜しい。時が経つのを待ち焦がれる。
夢見がちな少年たちは村の広場で語らう。
そんなときに必ず聞くのはラックが話す昔の騎士の武勇伝。
古書店はそんな話がたくさんあって、通るたびに本に手を伸ばす。
店長は物書きで、物語の新作を見せてくれたりもした。
ここにいる人はみんな『外』のことをあまり知らない。島内に残された先祖の文書、聞伝えなどで学んだ知識程度だ。実際に『外』を見たものは少ない。
そんな彼らでも身に染みてわかることは、人間は住処を追いやられてしまったことだ。時代はもう人のものではなかった。
「物書きになろうかな」
「ラック、『外』には行かねえのか!?」
「そんな訳はない。行って、この目で見た光景を本にするのさ」
ラックとクロウは、夏の間にツリーハウスを建てた。
計画書はラック。大工はクロウ。
一週間で完成したのは、計画と建設を同時進行したからだ。
その様子に島の大工は舌を巻いた。
大工にならねえか? そう言われたがラックは首を振った。クロウは、俺は組立しかできねえ、と笑った。
ツリーハウスは少年たちの憩いの場になった。
雨風を防げ、談笑でき、夢を語らえる。
村の夢見る少年たちは集う。
「もうすぐ帰ってくるな」
同じく『外』を目指す少年ペト。彼はそばかす顔をくしゃっとつぶし微笑んだ。
「ローガン、帰ってくんだな」
「師匠は死なないからな。前の航海の時もズタボロながらも帰ってきた。50針は縫ってた気がする」
「獣人にやられたって言ってたんだよな?」
「あいつらは気性が荒いんだと」
ラックとクロウは16になった。
海辺で互いの成長を喜ぶ。
「また少し、日が近づく。クロウ、僕は君がいて嬉しいよ」
「同い年にお前がいて良かったぜ。なんせ、チヤホヤされる」
最初のコメントを投稿しよう!