ハジマリ

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「クロウ。僕たちもいつか」 「そんときゃ、大将はラック。お前だな」 「よせよ。まずは生きれるようになろうぜ」 「ああ」 二人は港が静かになっても夕刻になっても、いつまでも水平線に目を向けた。 見知らぬ世界を覗き込むように。 人口は少なかれど、若者は多いこの島。 剣術の先生がいなくなり、ラックはいつもクロウと稽古に励んだ。 二人して野を駆け、洞窟を巡り、海辺で休み、けれども勉強はしっかりする。 そんな毎日が続く。 「強くならないと」そんな意志が彼らを駆り立てる。 寝る間も惜しい。時が経つのを待ち焦がれる。 夢見がちな少年たちは村の広場で語らう。 そんなときに必ず聞くのはラックが話す昔の騎士の武勇伝。 古書店はそんな話がたくさんあって、通るたびに本に手を伸ばす。 店長は物書きで、物語の新作を見せてくれたりもした。 ここにいる人はみんな『外』のことをあまり知らない。島内に残された先祖の文書、聞伝えなどで学んだ知識程度だ。実際に『外』を見たものは少ない。 そんな彼らでも身に染みてわかることは、人間は住処を追いやられてしまったことだ。時代はもう人のものではなかった。 「物書きになろうかな」 「ラック、『外』には行かねえのか!?」 「そんな訳はない。行って、この目で見た光景を本にするのさ」 ラックとクロウは、夏の間にツリーハウスを建てた。 計画書はラック。大工はクロウ。 一週間で完成したのは、計画と建設を同時進行したからだ。 その様子に島の大工は舌を巻いた。 大工にならねえか? そう言われたがラックは首を振った。クロウは、俺は組立しかできねえ、と笑った。 ツリーハウスは少年たちの憩いの場になった。 雨風を防げ、談笑でき、夢を語らえる。 村の夢見る少年たちは集う。 「もうすぐ帰ってくるな」 同じく『外』を目指す少年ペト。彼はそばかす顔をくしゃっとつぶし微笑んだ。 「ローガン、帰ってくんだな」 「師匠は死なないからな。前の航海の時もズタボロながらも帰ってきた。50針は縫ってた気がする」 「獣人にやられたって言ってたんだよな?」 「あいつらは気性が荒いんだと」 ラックとクロウは16になった。 海辺で互いの成長を喜ぶ。 「また少し、日が近づく。クロウ、僕は君がいて嬉しいよ」 「同い年にお前がいて良かったぜ。なんせ、チヤホヤされる」
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