ハジマリ

5/9
前へ
/30ページ
次へ
ラックは村随一の美少年だった。恋い慕う少女も多く。恋文に彼はいつも悩まされていた。 一方のクロウは、そんなラックを同い年ながらも慕っていた。昔のように同等ではないとクロウは感じていた。 ラックには、魅力とともに、技術、知識、何をするにも才能があった。 「ラックてさ、不思議だよな」 ある日、ペトが呟いた。 「不思議って、どう不思議なんだ?」 クロウは眉をしかめた。 「なんだか、魅了されるっていうか。最初見たときにさ、すぐ仲良くなりたいって感じた。頼りになりすぎて怖い、けど俺に向ける顔はいつも笑顔だ」 木にもたれながら、草笛を吹くペトは顔をクロウに向けた。 「お前もだよ、クロウ」 続けざまにペトは呟く。 「俺? 俺は笑顔なんてしょっちゅうしねぇよ」 「なんかさ、いいんだよな。見てるとさ、俺も加わりたい! って気にさせる」 ペトはぼんやりと遠く浮かんだ雲を眺めるとふぅとため息を吐く。 「なんだ、そっちの趣味あんのか?」 「ま、お前にゃわかんなくていいよ」 クロウは顎に手を置き、 「まさか、ラックに付きまとうオンナが欲しいのか?」 「なんでそうなる……。俺は女に苦労はしてないよ」 遠くから誰かが駆けてくるのが見えた。 「ペトー!」 いかにも町娘な服装で、ペト目掛けて飛んでくる女。 「女って……アイツ?」 「違うよ。アイツは幼馴染のリナ」 「ペトったら、午後の授業もほったらかして何してんの!」 腰に手を当てながら、怒鳴りつけるリナ。 「だって、この島の歴史なんて学びたくないし、神様も信じちゃあないから仕方ないよなぁ、クロウ?」 「俺は、剣を学ぶ」 「こんな脳筋に構ってないで、授業まだ残ってるでしょ!」 「俺はクロウに剣を教えてもらってんのー」 なぁっ、と顔を向けるペトに思わずクロウは頷く。 「ちょっと成績がいいからって……。クロウも、ペトをたぶらかさないでよね! 剣なんて古いわ」 「何! 撤回しろ!」 凄むクロウと睨み返すリナ。 「待て待て。落ち着け、二人とも」 「てめえのせいじゃねーか!!」 背後で足音が聞こえ振り返るクロウ。 「何してんの?」 遠くからラックが彼らの様子を窺っていた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加