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クロウは肩の傷を見せる。傷は癒えても跡は癒えぬ。それはクロウにとって、服従の証にも思えた。
「こいつが証拠だ。一太刀でやられた」
「まあ、そうだわな。
剣術の授業でもアイツ本気出してないだろう? だから不思議に思ったんだ。それでも、なお無敗というのは常人離れしてるけどな」
ペトは石ころをいくつか掴んで、回し始めた。
「お前の器用さもなかなかのもんだぜ。ピエロにでもなろうってのか?」
「見てろよー。あの石像の頭、的にすっから」
五つほどの石ころを順に真上に放り上げると、一つずつ丁寧に石像に当てる。
すべて石像の眉間に命中した。
「百発百中じゃねえか」
「いいだろ」
ペトは無邪気に笑った。クロウも笑った。
その日の午後、港では凱旋を楽しみに待つ人で賑やかだ。
クロウたちは催し物を眺めながら、港の小屋の一室に入り込む。
「いやぁ、助かる。やはり、クロウは荷物持ちとして便利だ」
「若干時化ってたな……」
ペトが荷を降ろし言う。
「今回の航海は、他国の様子見、人探し、新たな住処……。まあ、いつもと同じだけどやはり人外の住む街の話を聞いてみたいな」
「聞けるさ。もうすぐ帰ってくるんだ」
そんな他愛のない話の途中で、外が騒がしくなる。
「なんだ?」
「ペト様子を見てきてくれよ」
「俺が行く」
クロウは小屋の戸を開いた。何やら、人だかりができている。ずかずかとその中に入ると魔女を見つけた。
魔女は老婆だ。もう70くらいだろう。皺のある顔だが、老けているという印象よりも優しそうという雰囲気をを先に感じ取った。
口元の笑みがそうさせたのかもしれない。
その魔女は口を開くとこう言った。
「残念ながら、彼らは帰ってこないでしょう」
人々はぱちくりと目を瞬かせ、互いの顔を見つめた。
「やい。どういうことだ」
クロウは魔女の真正面に立つと怒鳴った。
「無礼者!」
魔女の後ろに女の子が立っている。
見習い魔女といった風貌で、背丈は低く幼い。
「彼らは望んで帰ってこないのです。今しがた、彼らと交信が取れました。彼らは人を見つけて、そこで過ごしているようです」
「ローガンは!? 生きてますか?」
いつの間にか、クロウの後ろにラックがいた。
「心配なさらずに。彼らは生きてます。そして言ってます。『人は虐げられる立場で、もうこれ以上の船出は意味を成さない』と」
どよめく群衆。
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