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無理して立ち上がったのが良くなかったのだろう。
零は慌ててベッドに腰掛け直し、テーブルの上に置きっぱなしのリンゴを齧る。
空っぽの臓腑に、甘酸っぱい汁がしみわたっていくのがわかった。
それにしても――と、改めて自分の姿を見下ろして苦笑する。
素肌に包帯が巻きつけているだけの上半身。そして、自分のものではない下着とハーフパンツ。
こんな姿で、かっこつけた台詞を吐いたって情けなさに拍車がかかっただけだっただろう。
殺し屋という裏稼業で生きながら、ただ流されるがままに多くの女に貢いでもらって生きてきた自分らしからぬ行為だったなと、改めて反省し無意識に前髪をかきあげる。
――それに、相手はあのイチだ。俺のカラダなんて求めてくるはずもない。
そう思った瞬間、胸の奥がきりきりと痛んだ。
それは二年前、イチが家を出て行って戻って来なくなって一週間が過ぎたあの日。
人生で初めて感じた痛みと同じもので、零は正体不明のその痛みに苦笑をこぼすほかなかった。
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