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「ばかばかしい」
自分に言い聞かせるように吐き捨てると、立ち上がってバスルームを探した。
どうやら、間取りから見てありきたりの2DKのマンションのようだった。しかし、モデルルーム以上にモノが少ない。
そして、フローリングが砂でざらついていることにも違和感を感じた。普通は玄関で靴を脱ぐだろう。しかし、思い返せばイチは室内でも靴を履いていた。
前はそんなことなかったのにと思いながら、念のため窓から外を覗けば遠くにスカイツリーが見えるので、ここは間違いなく東京だ。寝ている間に海外に連れてこられたわけではないようだ。諦めて、ベッドわきにそろえてあった自分の靴を履く。
二日前に着ていたジーンズもシャツもなかったが、代わりに以前置きっぱなしにしてしまったのだろう、見覚えのある黒いジーンズとシャツが脱衣所にさり気なく用意してあるのを見て零は舌を巻いた。
「相変わらず、何考えているかさっぱりわかんねーな」
誰もいないのにわざわざ軽口を叩くのは、胸の痛みを誤魔化すため。
浴室で鏡を見ると、左頬にうっすらと傷がついていた。
背中には、下手な縫い痕。
まぁでも、生きているのも悪くない。
また、イチに会えたのだから――。
なんてことを無意識に想ってしまう自分が気持ち悪かった。
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