554人が本棚に入れています
本棚に追加
雨の日には、ろくなことがない。
二十代前半のその男は経験則でそれを充分に知っていた。
そして、今もまた安アパートの外は土砂降りだ。
「出てってよ、レイ。
今すぐ出て行って」
ほら。昨日まで可愛かった女が、今や鬼婆のように血相を変えて怒鳴り散らしている。
テレビドラマの影響でも受けているのか、単にほかに凶器を思いつかなかったのか、震える手に包丁を握って男に刃先を向けていた。
「なぁ、どうした?
生理前だったっけ?」
――この時期ばかりは、女がイライラするのは仕方がない。ホルモンの影響なんだから。
ここ二年ばかりはジゴロとして生きてきたので、その程度のことは十分自覚して、また対処方法も心得ていたつもりだった。
最初のコメントを投稿しよう!