0.

2/6
前へ
/440ページ
次へ
雨の日には、ろくなことがない。 二十代前半のその男は経験則でそれを充分に知っていた。 そして、今もまた安アパートの外は土砂降りだ。 「出てってよ、レイ。  今すぐ出て行って」 ほら。昨日まで可愛かった女が、今や鬼婆のように血相を変えて怒鳴り散らしている。 テレビドラマの影響でも受けているのか、単にほかに凶器を思いつかなかったのか、震える手に包丁を握って男に刃先を向けていた。 「なぁ、どうした?  生理前だったっけ?」 ――この時期ばかりは、女がイライラするのは仕方がない。ホルモンの影響なんだから。 ここ二年ばかりはジゴロとして生きてきたので、その程度のことは十分自覚して、また対処方法も心得ていたつもりだった。
/440ページ

最初のコメントを投稿しよう!

554人が本棚に入れています
本棚に追加