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「――あっぶね」 のんきなことを思っている男の頬を、返事の代わりに包丁が霞めていった。まさか力任せに投げつけてくるとは夢にも思っていなかった男は、形の良い釣り上がった瞳を丸く見開く。 ――包丁を握った後は、それでぐさりと刺してくるのがお約束ってもんなんじゃねーの? 「ふざけないでよ。  いつもそう。  セックスの時だけ優しくしてれば、女は悦ぶって思ってんの?  ばっかじゃない。  いつまでたっても仕事につかないで、ぶらぶらぶらぶら。  いい加減にしてよ」 サチは鬼の形相で言い放つ。 なんで女ってのはこうも容易く声音を換えられるんだろう。学校の必須科目の中にそんな練習でも含まれているんだろうか。 なんて、学校に一度も行ったことのない男は冗談半分で勝手な想像をする。 アノ時は結構いい声で鳴くんだけど、こういうキンキン声は勘弁願いたい。無駄に鼓膜が傷む。
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