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「わかったよ、じゃーな」 行くあてなんてなかったけれど、話し合いの余地もなさそうなので男は立ち上がった。身長170センチの身体は、どこもすらりと細く小柄ながらもファッションモデルを思わせた。 長めの前髪に隠され気味の釣り上がった目と筋の通った鼻、そして官能的な紅い唇が小さめの輪郭にバランスよく収まっていた。 端正な頬に血が滲んでいることに、本人は全く気づいてないようだ。細身の黒ジーンズに黒い長袖シャツといういつもの恰好で、当たり前のように玄関に向かう。 この女の家で三か月暮らしてきたけど、元々荷物なんてほとんどないから、出ていくのにさほど手間はかからない。 玄関に置きっぱなしのジャケットだけを手にとると、ばたん、と、ドアを閉め、土砂降りの雨に肩を竦めた。
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