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本当、雨の日にはろくなことがない。
――そういえば、俺が産婦人科の前に置き去りにされた日も土砂降りだったって言ってたっけ。
傘なんて当然持ってない細身の男は人通りのない道を歩きながらふと、そんな昔のことを思い出してしまっていた。後で考えたら、そんなことが思い浮かんだことじたい不吉な予兆だったのかもしれない。
「――ふざけないでよっ」
ヒステリーな声が後ろから追いかけてきた。
振り向く前に、ぐさりと、背中に鈍い痛みが走る。
「――な――」
「トウコと私に二股かけて、なんでそんなに平然としていられるのよ。
愛してるって言葉は嘘だったの?
レイの馬鹿。死んじゃえばいいのに――」
どさりと身体が濡れたアスファルトの上に崩れ落ちていく。夜闇と、アスファルトの黒と、男の纏う黒い服。雨に混ざって全てが溶け合って消えてしまいそうだ。
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