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青年は至極当たり前のように口を開くが、細身の男の方はそれどころではない。 寝起きに他人同士のひどく淫らな絡み合いを目の当たりにしたとしてもここまで動揺することはないだろう。 慌てて掛布団を顔の上まで引きずり上げる。この人の前で無様な姿は出来れば見せたくない。 ――どうして、二年も前に俺を捨てた奴がここに居るんだ―― 男の当惑の視線など予想済みだったのだろう。長身の青年はゆったりと微笑んだ。 「闇医者の見立てだと、内臓に損傷はないらしい。  相変わらずラッキーな奴だな、ゼロは」 ――ゼロ 零(れい)のことを昔のとおりそう呼んできた。 その男の名は――半年も一緒に暮らしていたのに、聞いた覚えがなかった。零は自分が通り名で生きている以上、相手が名乗るまでその名は聞かないことにしていたのだった。
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