隣の席の悪魔

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「な、何でそんなこと急に聞くの!」 「だって、全然話してる様子ないし……もしかしてアドレス知ってるのか?」 「知ってるわけないじゃん! だって、南雲君と話したの、神社とこの前のだけだし……」 「聞かないのか?」 我ながらデリカシーが無いことをしてるなとは思う。けど、俺なりに勇気を出して聞いているのだから、これくらいのリスクは承知の上だ。 「聞きたいけど……でも、聞いてどうするのって感じだし。それに付き合えなくてもいいんだ、私は。言ったでしょ、ばれたくないって」 「そっか……ごめんな」 「ううん、いいよ。気にしてくれたんでしょ? ありがとう。気にしなくていいから……」 そう言って早見はいつものように笑ってみせたけど、お世辞にも笑顔とは言えない顔だった。早見のそんな顔は、見たくない。俺は早見の笑顔が好きで、そんな顔をさせたいわけじゃ無かった。 早見は箒を握って掃除を再開した。この話はここまでだということだろう。 けれど俺は、あえてそれを無視した。 「ばれたくないって……本当にそれだけなのか?」 早見の動きが一瞬止まる。 「本当は、自分に自信が無くて、振られるのが怖くて、気持ちを伝えたくないだけなんじゃ無いのか?」 自分の言葉が自分に突き刺さるようだった。早見に言っている言葉は、そのまま自分にも当てはまっていて、心の中で思わず自嘲する。 「俺……つい最近失恋してさ。伝えるだけでも伝えておけばよかったって後悔してるんだ。だからってわけじゃないけど……望みがあるなら、そんなに直ぐに諦めなくてもいいと思うぞ」 出来るだけ優しくなるように努めた声は、震えてしまって裏目に出てしまった。 「……でも」 早見は言い訳を探しているようだった。いっそ、早見に告白するなら今かとも思ったけど、あと一歩のところで言葉が出てこなくなってしまう。 早見に諦めるなとか言っておいて、自分はヘタレてるんだから説得力がなさすぎる。 でも、自分の気持ちを伝えられなくても、失恋しても、せめて、早見に幸せになって欲しい。そう思ったら、 「お、俺も協力するぞ!」 気付いたらこんなことを言っていた。
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