隣の席の悪魔

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無視をしたのか本当に気付いてないのかわからず、自分のこめかみがピクリと動いたのを無かったことにして、もう一度声をかける。 「おはよう」 先ほどより声を大きくして、まるで喧嘩でも売るようにはっきり南雲の方を向いて言ったおかげで流石に南雲も気付いたらしく、驚いたように俺の方を向く。 「おはよう」 ダメ押しのようにもう一度言えば、目をまんまるくしたまま「おは、よう……」と、うわ言のような返事をされた。 南雲の顔を正面からしっかりと見ると、鼻筋が綺麗にカーブを描き、まつ毛も長く、唇も程よく色づき厚過ぎす、思っていた以上に非の打ち所がない整った顔をしていた。強いて言うなら、肌が白すぎて病的に見える所が気持ち悪いが、それでも充分目をつぶることができる範囲だった。腹立たしいことこの上無い。 しかし挨拶は返されたし、俺としては第一段階はこれでいい。もしかしたら顔に不機嫌が現れていたかもしれないけど、俺はこいつと必要以上に仲良くなるつもりは無い。 視界の端で南雲の視線を感じるが、それを無視して筆記用具を机に移す。 その途中女子が「ユキおはよう」と挨拶する声がして、鞄から教科書が滑り落ちた。 指がわなわなと動き、頭が真っ白になるのと同時に、言い難い羞恥心に襲われる。教科書を拾いたいのに身体が思うように動かなかった。 「……大丈夫?」 それを見ていたらしい南雲に声をかけられ我に返る。慌てて教科書を拾おうと身を屈めると、誰かがすっと教科書を拾ってくれた。 視線を上げれば、早見が教科書を俺に差し出していた。 「……おはよう」 早見は頬を赤く染め恥ずかしそうに俯きながら、控えめな声で挨拶をする。 「あ、ありがとう」 差し出された教科書を受け取ると、早見はそそくさと席に着いてしまった。俺はと言えば、早見から手渡された教科書を暫く見つめて、またしても南雲の視線で我に返り慌てて机にしまった。 しっかりしないと。こんなことじゃ、早見に協力するどころじゃ無い。 決意を新たにして、放課後、授業が終わるなり帰ろうとする南雲を呼び止めた。 顔色一つ変えない南雲が癪に障るが、ここは我慢するしか無い。 「南雲のメールアドレス教えてくれ」 「いいけど、どうして」 「別にいいだろ。無いと色々面倒なんだよ」 「……そう」 何か言いたそうな視線を無視して、俺の携帯に南雲のアドレスを登録した。 「東野君のも教えてよ」
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