隣の席の悪魔

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会話をするなら今のうちなんだろうか。しかし南雲と会話するのは正直嫌だ。それはこいつが恋敵というのもあるのだろうけど、多分妬んでいる部分が大きいのだろう。 でも、早見と約束したんだ。協力するって。俺が早見を笑顔にしてみせる! 深呼吸して、南雲の方を向いた。 「それ、何の本読んでるんだ?」 「これ? クリスティーだよ。名前くらいは知ってるでしょ」 南雲は案外あっさりと会話に乗ってくれた。お守りの事を誤魔化す時もそうだったけど、こいつは結構察しがいいらしい。 悪い奴では無いんだろうけど……。 「そして誰もいなくなったの作者だろ?」 「そうだよ。これはアクロイド殺しだけどね。好きなんだ、これ。もしかして興味あるの? クリスティーなら家に何冊かあるけど、貸そうか? 血生臭く無くて読みやすいよ」 「いや……遠慮しておく。読書は好きじゃ無いんだ」 俺の返事に、南雲はおかしそうに笑いながら言った。 「そうだね。文章最後まで読まないみたいだもんね」 「……何だよそれ」 含みのある言い方に思わず眉を寄せると、南雲は微笑んだままで首を横に振り、別にと言った。 やっぱり面白く無い奴だ。 「でも、東野君が話し相手になってくれるなら読書はやめようかな。本ならいつでも読めるしね」 「いや、いいよ。邪魔して悪かったな」 「遠慮しなくていいのに」 そう言いながらも、南雲は読書に戻る。俺はやることも無くなって携帯を取り出した。 またスパムメールが届いている。どうせ暇だしアドレスでも変えよう。今なら学校だし、他のやつにも教えるのが楽だ。 適当にアドレスを変えて、アドレス帳に登録している全員にメールを一斉送信する。クラスメートの何人かが「登録しておくわ」なんて声をかけてくれた。 「東野君、どうしてアドレス変えたの?」 隣にいた南雲が聞いてきた。 「スパムメールが多くてな。うんざりしてたんだ」 「ふーん。大変だね。でも、こんなに短くてわかりやすいアドレスなら、スパムメールも来るだろうね。しかも一斉送信なんてしてるんだから、むしろ送ってくださいって言ってるようなものだよ」 「そういうのはアドレスを変える前に言ってくれ」 「次は教えてね」 そういえば、南雲のメールアドレスは登録する時苦労した。赤外線がついていないからわざわざ手で打ち込む羽目になったけど、あまりに長くて意味をなさない文字列に目が疲れたのを覚えてる。
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