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「よう、早見。久し振りだな」
俺がそう声をかけると、早見は見るものを溶かすような暖かい笑顔で返してくれた。
「久し振り! 変わらないねー東野君。安心しちゃった」
「早見は髪切ったんだな」
「あ、分かる? 暑くて我慢できなかったんだよねー。本当は伸ばしたかったのに。夏って嫌いだな」
そう言いながら早見は困ったように髪をいじると、小さく溜息をついた。似合ってるとか、可愛いとか言ってやれれば良かったんだけど、俺にそれを言う勇気が無かった。
会話はそこまでで、女友達に呼ばれた早見はそっちへ行ってしまった。たったこれだけの会話でも、充分だ。早見の席は俺のすぐ前なんだし、話す機会はいつでもある。
俺が満足感に浸っていると、後ろからポコンと軽い音をたてて叩かれる。見れば、筒状にしたノートを握りしめていた友人が立っていた。
「ヘタレだなーお前」
呆れたような顔で筒状にしたノートで自分の掌をぽんぽんと叩きながら、近くの席の椅子を借りて座った。
「何だよ」
そいつーー佐藤達也のせいで真顔になったが、佐藤は気にした様子も無く続ける。
「その様子だと本当に夏休みの間一度も会ってないなお前」
「そりゃあ、会うような用事も無かったし……あ、いや、夏期講習で会ったぞ」
「そんなのノーカンだっつの! あのなあ、一年なんてあっという間だぞ! 思いを告げないまま一年が終わって二年でクラスが分かれたら悲惨だろうが!」
ヒソヒソと喋りながらも声を荒げる器用さに感心しながら、何時ものセリフを聞き流す。
「そういうお前はどうなんだよ。例のお嬢様学校の愛しの姫君と会ったのか?」
「会えるわけねーだろ! 連絡先すら聞き出せてねーんだぞこっちは!」
道中偶然見かけたお嬢様学校の女子に一目惚れをして諦めずにその子を探して声をかけたこいつからすれば、俺は大層なヘタレだろう。
でも、それでもいい。叶わなくてもいい。この一年間だけでも好きでいられるなら、それて充分だと思えるくらいには、現状に満足していた。
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