隣の席の悪魔

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「あ……きゃああああああ!」 早見が悲鳴のような声をあげて、ギョッとする。俺がどうする事も出来ないまま突っ立っている間に、早見は慌てたように俺に駆け寄った。 俺の手を掴んだかと思うと、そこからお守りをひったくるように奪う。 顔を真っ赤にして唇を震わせる早見。小さい身体を更に小さくしたその姿は小動物のようで可愛かったが、今はそれどころでは無かった。 早見は胸元でギュッとお守りを握りしめ、真っ赤な顔を伏せたまま、小声でこう言った。 「……見た?」 「え?」 「だから、えっと……お守り、見たの?」 「み、見たけど……」 「どうして見ちゃうの! もう!」 俺の言葉を遮るようにそう叫びながら上げられた早見の顔は最早耳まで真っ赤だ。怒ったというよりは 恥ずかしくて思わず叫んだようだった早見はそのままうーうー唸りながら力なく椅子に座る。 そんな早見を可愛いなと思いながら、嫌な予感で掌の汗が止まらなかった。 「もしかしてそれ……」 「……私のなの」 蚊の鳴くような声でそう返されて、俺の中で何かが音を立てて崩れた。 「友達にも言ってないのに……」 その発言で俺は完全に打ちのめされた。つまり俺は友達とも思われていなかったと……そういうことだろうか。出来ることなら今すぐ盛大に溜息をついてうずくまりたかったが、そうもいかず、俺は座ることも出来ずにただ突っ立ったまま。 「早見、好きな人いたんだな」 質問というより最早うわ言だったが、律儀にも早見はどう答えた物かともじもししていた。少し迷った末に小さく頷いて肯定した。仕草がとても可愛いのだけれど、それと同時に襲い来る絶望感のせいでときめきが相殺される。 「いたっていうか、出来たんだけどね……夏休みに」 夏休みを大嫌いになりそうだ。 「そ……そうなのか。ふーん……そっか」 何も言葉が出て来なくて、意味のない返事ばかりになってしまう。とにかくショックで、涙で薄っすら視界がぼやける。
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