第3曲 ノクターン嬰ハ短調第20番は切ないです

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「ともくん、やったじゃん。高科さんとCD交換なんてなかなかやるねぇ」 授業合間の十分休み。和樹がさっそく茶化してきた。 「自分でも嘘みたいで、まだ夢にいるんじゃないかって思ってる」 「いったい、どういう経緯でそうなったんだ?」 やっぱりそこは説明しないといけないか……。 「どこから話したらいいかな。少し話が長くなるんだ」 そう返事すると、和樹は一瞬思考してからからかうように言った。 「それじゃあ、昼休みにゆっくり尋問するとするか」 「おい」 あははと和樹が笑い、僕は昼休みがなんか面倒になったなと思った。 そして、昼休み。和樹は僕と机を挟んで弁当を開いて、食べながら話を聞く態勢をとった。僕はピアノカフェで恋愛相談して今に至る経緯をざっくりだけど和樹に説明した。 たまたま立ち寄ったピアノカフェでバーテンダーの格好をした店員とピアノを弾く少女が恋愛相談に乗ってくれて、バーテンダーの方が偶然ここの学校だったので協力してくれて高科さんを食事に誘ってくれた。食事のときにCDを貸し借りする約束をした。そんなあらましを僕は言った。 ゴールデンレトリバーの後を追ったとか、割ったグラスを片付けるのを手伝ったとかは細かいことなので言わなかった。 それを聞き終えて、和樹は思案気にから揚げを口に入れる。それをしっかり咀嚼した後、合否を通告するかのような神妙な面持ちで話し始めた。 「へぇ、えらく協力的だね、そのカフェの二人」 和樹はどうやら二人のことを疑っている様子だった。 「本当、どうしてそこまで協力的なのかよくわからないんだよな。まあ、強いて言うなら一回、その新島ってやつがグラスを落として割ったときに片付けるのを手伝ったことがあるから、それかなと」 「うん、まあ、ただの面白半分遊び半分なんじゃないの? 人の恋路ってなんか出しゃばりたくなるじゃん」 「面白半分遊び半分って、どっちも同じだろ」 「揚げ足取るなって」和樹は少し仏頂面になって言う。「とにかく、聞きたいのは、ともくんは二人を信用しているのか?」 「まあ、そうだね。新島はいちいち突っかかってくるけど、二人とも悪意はなさそうだし、信用していいと思う」 「そっか、それならいいけど」 和樹はそれだけ言うと最後の一つになったから揚げを口に放り込んだ。
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