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僕は家に帰ると、さっそく借りたCDをパソコンに入れた。データをインポートして、iPodでCDにある曲を聴けるようにする。
イヤホンを耳に当て、アルバムを聞いていると一つの曲に心奪われた。その曲を聴いていると、ダークでクールな英語が身体を心地よく侵食していく感覚に捕らわれる。中毒になりそうな興奮に曝され、僕は鳥肌を立てた。
すごい。
僕は何回リピートしただろう。部屋に静寂が訪れ、身体の内側で起きた革命感を噛みしめるように僕は硬直していた。空気をゆっくり吸い込んで吐き出して、ただひたすら純粋に余韻に浸っていた。
それから、ふと思って歌詞の和訳をネットで調べる。
守りたい人のために、僕は悪でいたい。恋愛は周りを気にしてするものではない。
僕はその歌詞の和訳を読んで、そう解釈した。今、僕に必要なものだろうと思った。
翌日、僕は高科さんにCDを返した。
「どうだった?」
高科さんは期待大で聞いてきた。僕の返答を待って見つめてくる瞳に吸い込まれそうだし、なんか少し距離が近くていい香りするし、僕はどぎまぎした。けど、借りた曲のすごさを言いたい気持ちが勝って、それほど緊張することはなかった。
「すごくよかったよ! 特にあの悪役の恋の曲。ダークでかっこよくて鳥肌たった」
「あの曲いいよね!」と間髪入れずに高科さんはテンション上がって同意した。「恋のために悪いこともするってなんか素敵じゃない?」
「わかる、それ。周りが邪魔するなら容赦はしないってかっこいい」
そう言って、僕はなんだかバーテンダーみたいだなと思った。
「やばい、一条くん。わかる人だ!」
高科さんは僕の手を両手で包み込んで握手する。突然の出来事で呆気にとられた僕は、高科さんの手の温かさと柔らかさをずっと感じていたい衝動にかられた。
「あ、あ、高科さんの方はどうだった?」
僕は衝動でおかしくなる前に、貸したCDについて聞いた。すると、高科さんは勢いよく両手を合わせて大袈裟に僕を拝んだ。
「ごめん! 昨日、塾でまだ聞けてないの。だから、また聞いたら言うね!」
「そっか、いいよいいよ。また、聞いたら感想聞かせて」
「うん!」と高科さんは元気よく頷いた。「じゃあ、また今度言うね」
それで僕と高科さんは軽く手を振って、それぞれの席に着いた。まだ、高科さんの手の柔らかさに、僕の心が狂おしく轟いていた。
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