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恋音ちゃんが無茶なことを言ってからというもの、僕の頭の中は困惑でしっちゃかめっちゃかになってしまっていた。寝て起きたら妙案が浮かんでいる、という期待も朝の真っ青な快晴が気持ちいいほど吹き飛ばしてくれた。天気はいいけど、転機はよくない。さらにこんなさぶいダジャレを思う自分の機転もよくない。今日は夏の気まぐれなのかくそ暑いからいいか。よくはないか。
そもそもまず、どうやって誘うのか。なぜかCD貸しあう約束は流れでできたのだけど、突然誘うとなると急にハードルが高くなる。女子を突然誘うにはこのアイテムを揃えればいいのじゃとか言ってくれる謎の人物とかゲームみたいにいないかな。いないか。
「やあ、こんにちは、少年」
登校中にいきなり声をかけられて、僕は驚いた。心臓がビクッとして、とっさに身構えて振り向く。
「あはは、そんな警戒しなくてもいいよ……へくちゅん……」
愉快に笑ってなんだかかわいいくしゃみをするその人は、昨日カフェにいた女性だった。モデルみたいにスタイルのいい美人とはいえ、急に話しかけられたら、なんだか嫌な予感がする。それは僕の性格のせいなのかな。
「はじめまして、私は……うーん、そうだな……くちゅんっ……い、今のところは謎の美人なお姉さんくらいで」
くしゃみは心配だけど、この人の頭も心配だ。ジトッとした目で見つめよう。
「それは……警戒するなと言っている人の自己紹介ではない気がしますが……」
「あはは、それは確かに」と謎の美人なお姉さんは愉快そうに笑う。「でも……へっく……まあ、恋音ちゃんとマサルくんの知り合い……というかお客様くらいに思ってもらったらいいよ」
はあ、と僕は謎の美人なお姉さんのノリについていけなくて曖昧な返事をする。信用はしないけど、悪い人ではないのかもしれない。くしゃみ我慢したし。つまり、直観だけど。
「じゃあ、私が自己紹介したんだから、君も自己紹介しないさいよ」
あ、直観は当てにならないな。でも、関わってしまったから、適当に対応するか。
「あなたと同じ、謎のイケメンの高校生くらいで」
えっ、という怪訝な顔をされた。それから、僕は冷静に考えて今の発言にすごく恥ずかしくなった。
「あはは、さすがにイケメンとは程遠いなー」また、愉快そうに笑う。
「いや、今のなし! なしで!」
謎の美人なお姉さんは僕の訴えをニヤニヤしてスルーした。本当に恥ずかしかった。
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