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「【コード:cby2q0bq-186】前へ…」
静かな場所に機械の声が響いた。
「ユキッ!ユキッッ!!ユキィーーーッッ!」
俺は彼女の「名前」を叫び続けた。
俺らしくもない。
でも、何故か叫ばずにはいられなかった。
機械達が俺を取り押さえ、阻む。
俺の声に彼女は気付いた。
俺の声が届いた。
一瞬、悲しそうな顔をした気がしたが、いつものユキだった。静かに微笑んでいた。
涙を滲ませながら、めいっぱい、めいっぱい、微笑んでいた。
そして――「またね…」と、口を動かした。
俺は守れない約束はしない。だから、応えない。
だけど…、彼女の笑顔は忘れない。そう約束は出来る。約束するよ…。忘れるものか…。忘れる…ものか……。
「チリーン…チリーン…」
俺の傍を、無人の「移動式の箱」が通った。警笛の涼やかな音だけが響き渡る。他に音は無い。箱の格子窓からは「機械=人形」達の姿が見えた。箱の中身も静かだった。ただ一つだけ、俺に気付き、手を伸ばして来たのがいた。俺は表情一つ変えず、それを横目で見送った。箱は「ダストボックス」と書かれた看板を曲がって行った。
灰色の空、灰色の道、灰色の建造物…景色は灰色一色。
遠くには黒い海が見える。やはり音は無い。
この音が無い、灰色の世界が俺の住む世界、俺が生きている場所、此処が「地球」。
「地球は青い――」そう呼ばれていたのは遥か昔の話。
俺はその「青さ」を知らない。興味もない。
俺が知っているのは、この「灰色」の「地球」だけ。それで構わない。知らないのだから、構わない。
人間も、この世界に対応するように変化をして行った。
何もナイ世界=何も出来ナイ世界。出来ナイのだから、ヤらない。ヤろうともしない。
「希望」「夢」「未来」…そんな言葉は無意味。抱くだけ無駄だ。ただなんとなく生きればいい。与えられた時間を、なんとなく生きればいい。此処はそういう場所。淋しく、暗いだけの場所。
だから、何もしなくてもいい「人間」は「人間」とは名ばかりの「機械」へと「退化」した。
生まれたら、肉体から機械へと作り変わる。
成長はパーツをカスタマイズして行く。
この世界にも「親」というモノが存在し、それが満足の行くまで、「子供」という「玩具」をカスタマイズし続け、変化を繰り返して行く。飽きれば、親はそれを「放棄」する。
その後は、自分が自由な年齢を行き来すればいい。
ほら、人形遊びとなんら変わりない。
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