シキ

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だいたいこの世界に、「食事」という物を作る「材料」がない。「植物」や「動物」と呼ばれていた物は、絶滅した。今ではそれを悲しむ者はいない。だって、最初からそれを知らないのだから。どんなに素晴らしかったと伝承されようが、今のこの世界には不要であり、どうでもいい。 「昔はね、野菜とかお肉、お魚っていうのがあってね、ご飯を作る時には、「リズミカル」ないい音が聞こえて来たんだよ!トントントン、ジュウジュウ、コトコトコト…みたいな音を奏でるの!そしたら、温かい湯気と共に、とてもとても、美味しそうないい香りがするんだぁ!今は「コレ」を料理と呼ぶんだから、ヒロは可哀想だよね。」 機械のタイマーが鳴り響く。 ユキは音により、過去から現実に帰って来たようだ。 ユキはよく昔話をする。この話も幾度となく聞いた。 あまりにも繰り返すので、ユキは脳の回路が壊れて=欠陥品なのかもしれないと俺は時々思う。 だいたい、何故俺が可哀想なのか。知りもしないし、知りたくもないのだから、勝手に哀れまれても迷惑だ。 「どう?美味しい?」 本を置き、「料理」を少し口にした。すると、すかさずユキが目を輝かせて聞いて来た。 「…うん。」 俺が一言だけ頷くと、とても嬉しそうな笑みを浮かべ、 「良かったぁ、ありがとう。」 と、頭をくしゃくしゃと撫でながら、何故か礼を言って来た。 全てが理解出来ない。「食事」など必要がないのに、自分の欲の為に食べさせる。まさに、人形遊び。親の「エゴ」と変わらない。俺を通して、自分の子供とでもいるつもりなんだろうか。もしそうだとしたら、なんて滑稽なんだ。それに付き合っている俺も滑稽な事だろう。 「ほら、見て!この本に載っているこれ!これは「花」っていうの、綺麗でしょ?」 置いてあった本を、ユキが勝手に読んでいた。そして、一つの挿し絵を俺に見せて来た。 「…うん、綺麗だね…。」 俺は少しだけ目線を本に落としたが、さほど興味もないので、「料理」を再び食べ始めた。 「「色」があるね、色んな「色」!んとね、これが「赤色」で、こっちは「黄色」…「青色」に「緑色」!今はこんな世界だけど、花は身近に触れられるほど、いっぱい生きていたんだよ!」 「ふーん…。花が生きるって事は、こんな小さいのに命があるって言うの?」 あまりに生き生きと語るので、珍しく問い掛けてしまった。
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