シキ

9/11
前へ
/11ページ
次へ
「ユキ…俺はこんな感情いらない、辛いだけだ…。なんでユキは笑えるんだよ。俺は笑えない…。」 「私はヒロに出会えて幸せだよ。ヒロもね、いっぱい、いっぱい、温かさを私にくれたよ。だから私はヒロが好き。好きだから笑うよ。ヒロにも笑っていて欲しいから。ヒロは私と出会わなければ良かった?」 「辛いだけの感情ならいらない。でも、ユキが色々な感情を連れて来た、教えてくれた。他の感情はあってもいい。だから、ユキがいて欲しい。いつも笑顔なユキが俺もいて欲しい。」 「ありがとう…ありがとう…ヒロが大好きだよ。ずっと、ずっと大好きだよ。「ずっと」はあるよ。私はずっと、ずっとヒロが大好き…。」 「俺…ユキに花をあげたいんだ。ユキが嬉しそうに話をするから、花をあげたら笑ってくれるかなと思って…。でも、何処にも見当たらない。俺は花がどう生きているのか知らない…」 「ヒロ、笑って!私が連れて行ってあげる。」 ユキはいつもの笑顔でそう言った。すると、さっきまでなかったはずの「そこ」に、「扉」だけがあった。ユキは俺の手を引き、その「扉」へと掛けて行った。 「ほら、ヒロ見て!一面に花が咲いているの!」 それは無限に広がっているのではないかと言う程、「花」というものでこの「世界」は満ち溢れていた。 沢山の色があり、とても、とても眩しい世界。これがユキの知る世界。俺の知らない世界。 「これが「土」!ふかふかでしょ!土にも香りがするの。」 「「土」も生きているの?」 「うん、生きてる!ほら、風が吹くと花や草木がサワサワと歌いだす。」 「本当だ、生きているんだね。」 「生きてるよ。季節が巡ると風景は表情を変えるの。私は冬の臭いが好きだったな。」 「どんな臭い?俺もユキと同じように感じてみたい。」 「どんな臭いかな…言葉では難しいね。鼻先がひんやりと冷たい。くすぐったい。でも、とてもイイ臭いがするの。」 「他の季節にも臭いがあるの?」 「あるよ!季節は身体全体で感じられる。」 「俺にも分かる時が来る?ユキが教えてくれる?」 「私が知ってる事、ヒロに全部教えたかったな。鳥の囀りも、水の流れも、星の瞬きも…沢山、沢山、教えたかった。ヒロの生きている世界は、こんなにも素敵なんだよって、だから諦めないでって教えたかった…。」
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加