第1話 異変

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瞬間、叫び声が聞こえた。 先程までの女性の声ではなく、低く苦しみを含んだ声――それも一つではない。 自身の背後からソレは聞こえた。 ―――男は振り返る 女性の両手を拘束していた筈の男たちの姿はなく、一人は地面にひれ伏し悶え、残るは首を掴まれ片手で持ち上げられていた。 さっきまでの弱々しい女性の姿は微塵の欠片もない――。 その表情はまるで見たもの全てを凍り付かせるかのような鬼の形相。 「――ザルバ」 『ああ。間違いない、鋼牙――……ホラーの気配だ』 鋼牙と呼ばれた白いコートの男は左手の中指に嵌めた髑髏に似た形の指輪に話し掛ける。 髑髏の形をした、魔導輪ザルバはカチカチ――、と音を鳴らし喋り出す。 「――ナサリシチサ(魔戒騎士か)」 女性が発したと思われるその声は、もはや人間のモノとは明らかに違っていた。 男と女の入り雑じったようなモノ――。 だが、どちらも地獄の底から響いてくるかの如く、威圧感が漂う。
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