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二人で無言で東へ進む。
山崎さんはいつの間にか、侍の格好から背中に荷物を背負った行商人の姿になっていた。
――今頃気付いたけれど、大坂で初めて会ったときの格好と同じだ。
山崎さんは色んな格好をして、尊皇派の志士を探る係りなのかな…………?
それこそ密偵?
急に帯を引っ張られて、道の端へ寄ると、お尻を出した飛脚が後ろから抜いていった。
「……あのな。私情で心ここに在らずとかええ加減にせえ……どっち道、あんたら皆、成就せえへん恋やさかい……諦めや」
「……成就せえへん恋って?何のこと?」
山崎さんは大きな目を見開いて
「あほ。あんたが井上好きで、馬越があんた好きで、沖田が医者の出戻り好きで、井上はあんたが気にはなるが気付いてへん……佐々木はあの娘やし、松原は例の後家で……他にも隊内恋事情聞きたいか?」
――この人何でこんなに詳しいんだろう
「て言うか!私と馬越さんと井上さんは違うから!」
きゅっと、頬をつねられた。
「どの口がほざいとんのや?びーびー泣いとったくせして……」
「泣ひたのは井上さんが好ひなんじゃないひ……」
「わしの情報収集をなめんな……好きやろ?」
「違うひ!」
言い合いをしていたら、通りの人が、私たちを大きく避けて通って行った。
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