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橋を渡り川沿いを走った。
袴に着替えたけれど、急ぎ過ぎて脇から紐が出て来てひらひらした。
左手には持ってきた救急用具。
それから三つ目の橋を過ぎて、林さんは足を止めた。
夜でも明るいお店の立ち並ぶ先に、人だかりが出来ていた。
昨日会った力士の集団が怪我人を抱えて目の前を通り過ぎた。
「……ひどいわ」
「見たらあかんて」
人垣の間を抜けると、羽織を体に掛けられた力士が一人地面に倒れていた。
そばに山南さんと野口さんを見つけた。
「何があったんですか!?沖田さんが怪我をしたって!この人も怪我をしているんですか!?」
地面に横たえられたまま、気を失っているみたいで、ピクリとも動かない。
意識や呼吸の確認をしようと、側に膝をつくと
「――死んでる」
野口さんがぽつりとつぶやいた。
「え?」
ぬかるんだ地面が赤いことに気が付いた。
「殴りこんできたのはこいつらだ。こちらに落ち度はない」
山南さんは野口さんの肩を叩いて、店の中へ入って行った。
横たわった力士の頬の泥をぬぐった。
「どけ」
荷車が来て、力士が三人掛かりで運んで行った。
野口さんと無言で赤いぬかるみを眺めていた。
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