ぐるぐるお雪

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「離して貰えますか?」 井上さんが山崎さんの腕を掴んでいた。 「今から二人で茶屋へ行くとこや。あんたらも一緒に行くか?」 もう一方の井上さんの腕に、うっちゃんさんがくっ付いていた。 「いやん。福田はん。そんなうぶなお顔して、こちらのお兄はんとそんなとこ行かはりますの?」 女と出掛けたって!うっちゃんさん!? だったら教えてくれたらいいのに―― 最近、井上さんは私の事が邪魔みたいだ。 隊士募集係も外れろって言うし、前はウザい位一緒にいたのに…… 「……山崎さんと二人で行きたいので……着替えてきます……」 「福田さん――」 井上さんの呼ぶ声が聞こえたけど、救護室へ入って障子を乱暴に閉めた。 風呂敷から女物の着物を引っ張り出した。 ――うっちゃんとくっついてた。 「……なんだ。二人は付き合うのなら、教えてくれてもいいのに。私のこと友達だって言ったじゃないか……」 お梅さんもうっちゃんさんはいい子だって言ってたし……井上さんより歳上じゃないかな? 歳とか関係ないけど……山崎さんはこまちちゃんファンぽいしさ…… 桃色の着物を羽織った。 髪は適当にお団子にした。 この部屋には姿見がないから、着物が綺麗か分からないんだけれど。 障子を開けると、井上さんが縁側に一人で座っていた。 あ、と急いで立ち上がった。 「茶屋へ二人で平気ですか?任務とは言え、その……」 「大丈夫です。うっちゃんさんと仲良しなんですね……馬越さんが悔しがりそう」 笑うと井上さんは目をそらした。 「行ってきます!」 草履をはいて、早くその場を離れようとすると 「福田さん」 左手を引っ張られて止められた。 「大丈夫には見えないのですが……」 振り返って心配そうな井上さんの顔を見たら、何故か泣きたくなってきた。 ふわり、うっちゃんさんの香りがした―― 「触らないで!」 もう。 胸がぐるぐるする。 井上さんを突き飛ばして、門まで走った。
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