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「謝り、たくて」
先輩は僕に目を向けられないまま、俯いて話す。
……変わってない。臆病で不器用で、僕の顔さえまともに見ることができない弱い人。強姦される前に告白してきた時だって、この人は下を向いていた。
抵抗した僕を殴り、押さえつけ、拘束したのも、その臆病さからだったのだろう。そんなに追い込まれていたのなら、言葉にしてくれればよかったのに。
いや、言葉にされても、僕ならしつこいと一喝して終わりだったかもしれないが。
「何を謝ってるんですか?」
篠木先輩はぱっと顔を上げた。
「何を、って……」
「僕はあなたに復讐しましたよね。結構酷いことをした自覚もあります。それでチャラになってるはずですよ。あなたが謝るなら、僕も謝らなくちゃならない」
思わず、だろうが、篠木先輩は初めて僕の顔を見た。
僕はぎこちなく笑う。
「あなたを友人とは思えないけど、恨んではいないですよ」
先輩の瞳から、一筋涙が溢れるのが見えて、僕はそこを後にして屋上へ戻った。
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