──岬──

59/60
428人が本棚に入れています
本棚に追加
/222ページ
「謝り、たくて」  先輩は僕に目を向けられないまま、俯いて話す。  ……変わってない。臆病で不器用で、僕の顔さえまともに見ることができない弱い人。強姦される前に告白してきた時だって、この人は下を向いていた。  抵抗した僕を殴り、押さえつけ、拘束したのも、その臆病さからだったのだろう。そんなに追い込まれていたのなら、言葉にしてくれればよかったのに。  いや、言葉にされても、僕ならしつこいと一喝して終わりだったかもしれないが。 「何を謝ってるんですか?」  篠木先輩はぱっと顔を上げた。 「何を、って……」 「僕はあなたに復讐しましたよね。結構酷いことをした自覚もあります。それでチャラになってるはずですよ。あなたが謝るなら、僕も謝らなくちゃならない」  思わず、だろうが、篠木先輩は初めて僕の顔を見た。  僕はぎこちなく笑う。 「あなたを友人とは思えないけど、恨んではいないですよ」  先輩の瞳から、一筋涙が溢れるのが見えて、僕はそこを後にして屋上へ戻った。
/222ページ

最初のコメントを投稿しよう!