ここで、蒼と一緒に

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トントン、と確かめるように爪先で地面を叩く蒼。 その表情は、穏やかな笑顔だった。それもいつもの無邪気でおっとりしたそれとはどこか違う、何というか――どこか大人びた、私の知らない笑顔だった。 「……なんだ、泣き虫な蒼のことだから、泣いたかと思ったのに」 「僕だっていつまでも子供じゃないんだよ」 思わず頬に熱が集まる。私はそれを隠そうと、悪戯っぽく茶化して見せた。 対する蒼はそんな言葉にわざとらしく膨れた素振りを見せ、反論する。 ああ。大丈夫、いつもの蒼だ。 僅かな間が生まれた。 私はお互いがたった今とった行動こそがまさに子供っぽいということに気付き、クスリと笑いを漏らす。それを見たからか、はたまた同じように感じたからなのか、蒼も一拍子ほどの後にふっと笑う。 「お互い、変わんないってことか」 「ふふっ、そうみたいだね」 正体が判別できない程の遠くを、少し大きめの鳥が飛んでいくのが見えた。引き連れられたかのように、ふわりと一迅の風が駆け抜けていく。 適度に冷たくて心地よい、夜よりも少し早めにやって来た夜風だった。 私は外套のように羽織っていたタオルケットを丸め、鞄へと押し込む。そして、鞄を持っていない方の手を蒼へと差し出した。 昼間、蒼が私にしたように。 「また一緒に走ろうよ。部とかタイムとか関係なしに。歩くほどのゆっくりでもいい、からさ……」 言い掛けたものの、私はすぐに自分の発言は配慮がなかっただろうことに気付く。早く走る事を求めた蒼に、自分と走り続けた故陸上を失った蒼に、それはあまりに酷な誘いなのではないだろうか。 「……ごめん、私、失礼な事言ってるよね」 罪悪感から、出した手は徐々に引っ込んでいった。
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